昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略の影響で、素粒子研究の国際拠点「欧州合同原子核研究機関(CERN=セルン)」の研究者の研究論文250本以上が学術誌に未掲載になっていることがわかった。ウクライナの研究者らが、ロシアの研究者と共著者になることに反対したことが原因だ。共同研究を進める日本の研究者は、業績となる論文が出ないため「大きな痛手だ」と苦悩している。

 スイス・ジュネーブ郊外にあるCERNでは、世界最大の円形加速器「LHC」を利用して素粒子の性質などを調べる実験が進む。2022年時点で世界各国から約1万6000人が実験に参加し、そのうち日本からは約400人、ロシアから約800人、ウクライナから約40人が関わっている。

 従来、CERNでの研究成果の論文の著者欄には研究に関わる数千人規模の名前が載っていた。しかし、ロシアの侵略が始まると、ウクライナの研究者や他国の研究機関などから、ロシアの研究者と共著者になることに反対する声が上がった。

 これを受け、CERNの主な研究チームは当面、学術誌への論文掲載を見合わせることにした。新たな研究成果をまとめた論文は、22年4月以降はほとんど掲載されていない。ただ、「ロシアの研究者に戦争の責任はない」といった意見もあり、現在も論文掲載の是非を巡る議論が続いている。
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