https://www.tokyo-np.co.jp/article/231809
「理解増進法では不十分」差別禁止条例に救われた性的少数者の訴え 実効性ある被害救済制度とは
性的少数者(LGBTQ)を巡る元首相秘書官の差別発言を受け、「LGBT理解増進法案」の国会提出に向けた議論が本格化している。ただ、同法案には差別解消に向けた具体策がなく、野党が提出済みの「差別解消法案」は行政や事業者に性自認による差別を禁じるなど実効性のある内容だ。こうした中、すでに性的少数者に対する差別禁止を条例で定める自治体がある。かつて差別に苦しんだ男性(26)は「国レベルで差別を禁じ、救済制度のある法律が必要」と訴える。
◆会社に研修を指導「大きかった」
「行政側が差別的な行為を調査し、会社に助言、指導してくれたのが大きかった。会社も問題だと認識し、向き合ってくれた」
東京都豊島区の保険代理店に勤めていた男性は区に人権侵害の救済を申し出た当時を振り返る。
2019年、上司へ同性愛者だと伝えると、職場で暴露(アウティング)され、同僚に無視されたり避けられたりした。精神疾患になり休職していた20年、区に救済を申し出た。
豊島区は男女共同参画推進条例で、性的指向や性自認による差別やアウティングを禁じる。これに反する人権侵害があったとの申し出があれば、区長付属の苦情処理委員が関係者の調査や指導、是正要請を行う。
男性のケースで豊島区側は、事業者に性的少数者に関する研修をするように指導。事業者は謝罪した上で、解決金を支払うことで男性と和解した。「人権侵害の申し立てをしていなかったら、同性愛の自分が悪いと追い詰めていたかもしれない」と男性は振り返る。その後、退職して新たな仕事に就いた。
◆約60自治体で禁止条例…でも
豊島区の男女共同参画推進条例は19年、同性カップルなどを公認するパートナーシップ制度導入に合わせて改正。以前から禁止していた「性別」による差別を、「性別等」と改めて適用範囲を広げた。このため性的少数者への差別や人権侵害への救済もできるようになった。
全国の当事者団体でつくる「LGBT法連合会」(東京)によると、性的指向、性自認による差別禁止条例がある自治体は約60に上る。だが、私人同士の間で起きた人権侵害への苦情処理を規定した条例は、都内では豊島区のほか港区であるが、少ないという。
男性は「豊島区には条例があり、救済を求めることができたが、多くの場合は泣き寝入り。『理解増進法』では不十分だ」と言葉に力を込めた。
◆<Q&A>野党提出の差別解消法案って?
LGBTQの人権を守る法整備を求める機運が高まっている。5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)前に「理解増進法案」を成立させようとする動きのほか、今国会では既に野党が「差別解消法案」を提出している。