「EU離脱すれば週550億円の拠出金を医療に回せる」…それはウソだった
救急外来の待合室は疲れ切った表情の老若男女であふれていた。いすが足りず、多くの人が立ったまま痛みに耐えていた。
英紙「バイライン・タイムズ」記者のジョサイア・モーティマ(29)は昨年10月、急性虫垂炎に襲われ、ロンドンの大学病院に電車と徒歩で駆け込んだ。
救急車を呼んでも数時間は来ないと分かっていたからだ。
モーティマは「医師も看護師も不足していた」と振り返る。転倒して運ばれてきた高齢の女性患者は何時間も放置されていた。
精神的に不安定となった患者が病院スタッフを平手打ちする光景も見た。モーティマは待合室で16時間激痛に耐えた末、ようやく「緊急手術」を受けた。
1948年に発足した国家医療制度「NHS」は誰もが無償で公的医療サービスを受けられ、英国民の誇りとなってきた。
モーティマは元首相ボリス・ジョンソンらEU離脱派の約束を覚えている。
「離脱すれば、EUへの週3億5000万ポンド(約550億円)の拠出金をNHSに回せる」。
離脱の可否を決める2016年の国民投票を前に、この約束を掲げた赤いバスが全国を巡り、NHSを愛する国民の心を刺激した。
しかしEU側の首席交渉官だったミシェル・バルニエは「真実でない数字だった」と批判する。
1日、ロンドンで回顧録出版の記者会見をしたバルニエは、離脱派の中心だった元英国独立党党首ナイジェル・ファラージに
「あのバスの言葉はでたらめだ」と指摘したと振り返った。ファラージは「その通りだ。ボリスに『これは正しくない』と言った」と答えたという。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/229381