「勉強が本当に難しくて、まわりもすごい人ばかり。もっとやらないと」。昨秋、英オックスフォード大大学院に入学した田上さんは、学ぶことが楽しくて仕方がないという。飛び級制度で米コロンビア大と大学院修士課程を4年で終えて進んだ。「遺伝子を研究して病気のない世界をつくりたい」と話す。

会社員の父の転勤に伴って、幼少期を海外で過ごした。蚊の研究をしようと思い立ったのは、10歳から14歳まで暮らしたシンガポールでのことだ。熱帯に位置するシンガポールでは蚊が媒介する伝染病「デング熱」の被害が深刻で、国を挙げて撲滅キャンペーンが行われている。家族も気をつけていたが、長袖を着ても、妹だけが何度も刺され、水ぶくれになってしまう。「かわいそうで、なんとかしてあげたい」と思ったのがきっかけだった。

14歳で日本に帰国し、立命館宇治中学(京都府宇治市)に転入したころから、研究のため蚊を集め始めた。最初は近くの公園で虫捕り網を試したが、網目からすり抜けてしまう。神社の近くで蚊がたくさんいる森をみつけ、小さなポリ袋で1匹ずつ捕まえて、段ボールで自作した「蚊のハウス」で育てた。寒くなると死んでしまうため、夏でも冷房をつけず、9月後半からはこたつに入れて蚊の習性を観察した。

さらに本格的に研究しようと2015年4月、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校の京都教育大付属高校(京都市)に進学。自宅から通える距離にあり、蚊の実験を進めるうえで欠かせない菌の培養施設があることが、学校選びの決め手になったという。

SSHは先進的な科学教育の実践を目的に02年度に始まった。文部科学省の指定を受けると、学習指導要領を超えたカリキュラム編成などが行えるようになる。22年度の指定は217校。京都教育大付属高校では、大学の研究室を訪ねて実験実習を行ったり、海外の高校生や研究者らと交流したりしていた。