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汚れた五輪組織委上層部に著名人30人超、中身伴わず

東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件の舞台となった大会組織委員会には、権威に異を唱えられぬ悲しき人々がいた。政治家や経営者、元官僚、元アスリート、文化人多彩な背景を持つ理事が30人以上そろっていたが、多くが自己主張を控え、存在感を消していた。組織委の理事に限らず、日本には社長を監督しない取締役、上司の言いなりの部下がどこにでもいる。五輪を汚した、権威に弱い「普通の人々」を追う。
今となっては、組織委が掲げた崇高な基本コンセプトがむなしい。
未来への継承
・東京1964大会は(中略高度経済成長期に入るきっかけとなった大会。
・東京2020大会は、成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく。
1年間の延期を経て、2021年夏に開かれた2度目の東京五輪は、世界にポジティブな変革を促すどころか、成熟国家を自任する日本で、不正が横行していることを印象づける大会となった。現在、東京地裁で五輪のスポンサー選定などを巡る汚職事件の裁判が進んでいる。加えてテスト大会で入札談合があったとして、東京地検特捜部と公正取引委員会が捜査中だ。
崇高な理念を掲げた国家的イベントを地に落としたのは権威に弱い、どこにでもいる「普通の人々」だ。不正に手を染めた疑いのある現場と、現場の不正を防げなかった組織委の理事会の双方に、権威に異を唱えられぬ悲しき人々の姿があった。
まずは理事らが形骸化させた理事会の内実をご覧に入れよう。毎回しゃんしゃんで終わってしまう多くの民間企業の取締役会と似ていることが分かっていただけるはずだ。人ごとでは済ませられない。
出発点は森喜朗氏の女性蔑視発言
覚えているだろうか。21年2月に開かれた日本オリンピック委員会(JOC)の会議で当時、組織委の会長だった森喜朗氏が、あいさつ中に女性を蔑視し、辞任に追い込まれた。発言の要旨は次の通り。
「(私が過去に会長を務めていた)日本ラグビー協会にはたくさんの女性理事がいるため、理事会に時間がかかる。(これに対して)私どもの組織委の女性理事はみんなわきまえておられて、お話がシュッとして、的を射ている。我々にとって非常に役に立っている」。森氏の真意は本人のみぞ知るだが、「余計なことを長々と発言しない」ことが、「わきまえている」ことだと解釈できる。
組織委のような団体の理事会は民間企業の取締役会に相当し、不正を防ぐ仕組みの構築と運用が法的に求められていた。結果的に理事らは実効性のある仕組みの導入に失敗したと言わざるを得ない。「わきまえる」という言葉にその原因が隠れている、との仮説に基づいて記者は取材に乗り出した。
今回、複数の元理事が取材に応じてくれた。その一人である佐野道枝氏(仮名)は取材中、「理事会で積極的に意見を出さず、与えられた役割を果たさなかった。本当に情けなく、申し訳ない」と、率直に陳謝した。
「理事会で発言を控えたあなたは、『わきまえた女性理事』の一人だったと言えるのではないだろうか?」。記者のそんな質問に、佐野氏は「確かにそうだ」と吐露した。
佐野氏だけではない。性別にかかわらず、理事らの受け身の姿勢が、理事会の議事録からうかがえる。理事会は14年1月〜22年6月の8年半に50回開かれた。そのうち15年12月以降に開催された計42回分の議事録(要約版)が公開されている。
この間、森会長が理事会の議長として諮った議案は115件、後任の橋本聖子会長は22件に上った。決議に先立って、まず進行役や事務局の担当者が議案の内容を説明した。テーマは「組織運営改革に伴う体制整備について」「事業計画および収支予算などについて」「副会長の選定について」など多岐にわたった。ところが説明を受けても、理事らが活発に審議した様子はほとんど見受けられない。
理事会の出席者によると、開会時に「本日は2時間後の午後3時から記者団へのブリーフィングがあります」などと伝えられた。ブリーフィングが始まる時刻までに閉会することを意識させられ、審議に時間をかける雰囲気はなかったという。
たまに意見が出たとしても、「引き続き厳しく経費の精査に努めていただきたい」「パラリンピアンなどが意見を言える場を設定してほしい」といった無難なものばかりで、誰も議案の是非を問うことはなかったようだ。政治家や経営者、元官僚、元アスリート、文化人など多彩な背景を持つ、30人超の理事らがそろっていたにもかかわらず、自分の経験や知識を議案に反映しようとする者はいなかったと言っていい。
「国・都・JOCが決めていた」
議案の修正や、差し戻しを求めたことは一度もなく、森会長や橋本会長が諮った議案は一つ残らず、「満場一致の議決をもって