https://www.tokyo-np.co.jp/article/232756

地域猫活動 守る命と街 「野良」管理しながら減らす ふん害などのトラブル解消

「野良猫に餌をやるなんて、けしからん」。飼い主のいない猫を地域で見守る「地域猫活動」に対し、読者からそんな声がしばしば届く。本来は野良猫によるトラブルをなくすことが目的なのに、誤解もあるのかもしれない。地域猫活動の在り方を探った
 「ぶーちゃん。ご飯の時間だよー」。今月初旬の午後四時過ぎ、愛知県大府市の県営あいち健康の森公園で、市民団体「おおぶ地域ねこの会」代表の植木祐子さんが、白黒色の猫に声をかけた。園内三カ所を餌やり場と決め、毎日朝夕二回、ボランティアが交代で餌やりをしている。よその猫が来て食べないよう、食べ終わるまで待って器を持ち帰るのがルールだ。
◆避妊手術など実施
 同会が活動を始めたのは二〇〇九年。当時、公園に猫が増え始め、利用者の後をついて行ったり、餌をばらまく人がいたりして問題になっていた。そこで、まず猫の数を減らそうと、園内にすんでいた四十六匹のうち、三十五匹を捕まえて避妊・去勢手術を実施。その目印として、それぞれの耳先をV字形にカットして元の場所に戻した。
 さらに地域住民から世話をするボランティアを募集。餌やりの時間と場所を決め、プランターに土を敷いたトイレも用意した。「自治会や公園管理者、地元の獣医師が『野良猫は地域の問題』と捉えてくれた。手術代の負担などにも協力的」と植木さん。今では園内の猫は七匹に減った。
 「地域猫活動は、飼い主のいない猫を地域で正しく管理して生活させること」。約二十五年前に活動を提唱した神奈川県動物愛護協会常務理事で獣医師の黒澤泰さん(66)は説明する。よく混同されるのが「TNR活動」。英語の「Trap(捕獲)」「Neuter(避妊・去勢手術をする)」「Return(元の場所に戻す)」の頭文字で、野良猫に手術を施し、自然淘汰(とうた)で数を減らすことを狙う。地域猫活動は、TNRに加えて、餌やりや清掃などのルールを決めて管理し、住民とのトラブルを減らすことが目的だ。
◆行政も普及後押し
 「最も大事なのは、何がトラブルになっているか、地域で話し合うこと」と黒澤さん。子猫が増えていることか、庭にふんをされることなのか。地域によってトラブルは異なり、解決策も異なるからだ。
 TNRだけでは駄目なのか。黒澤さんは「TNRを進めても、ふんや餌やりのトラブルは続く」と指摘する。猫の雌は生後六カ月で繁殖可能になり、一回に三〜六匹、年三回出産できる。雄は一年中発情する。「他の地域から流れてくる猫もいて、野良猫をゼロにするのは難しい。猫を排除するのではなく、トラブルをなくすことを考える必要がある」
 活動の受け皿として挙げるのは、各地の町内会。最近は町内会がない地域もあるが、「商店街で飼う『商店街猫』でもいい」。あいち健康の森公園も公園を拠点とした「公園猫」だ。
 「猫好きのボランティアが行う活動」とも思われがちだが、「あくまで野良猫によるトラブルを解決し、住民が住みやすくするための地域住民の活動」。猫が嫌いな人、全く関心がない人にも話し合いに加わってもらい、トラブルを減らすためにどうしたらいいのか対話する。行政も普及啓発や適正な飼育管理の指導、資金助成などコーディネーターとして協力する。黒澤さんは「地域の問題として全員が共通認識を持つことが大切」と力を込める。