宇宙には「公序良俗」を取り締まる存在がいる…? 「宇宙検閲官仮説」という“魅惑的な仮説”が生まれた背景に迫る

 「宇宙検閲官仮説」
 なんとも不可思議で魅惑的な響きです。この文字の並びを見ているだけで、つぎつぎと疑問が湧いてきます。

 宇宙を検閲する? 誰が? 何を? いったいどうやって? 
 なぜ宇宙に「検閲官」がいるなんていう、いっけん突飛に見える仮説が提示されたのか。ここではその背景を、大阪工業大学教授の真貝寿明さんがわかりやすくご説明します。
 (この記事は、真貝寿明『宇宙検閲官仮説』を抜粋・編集したものです)

「特異点」とは何か?
 「宇宙検閲官」という不思議なタイトルにひかれて、このページを開かれた方も多いと思います。
ご存じのように検閲官とは、公序良俗を乱すような「不適切な表現」が、公衆の目にふれないように取り締まる役人のことですが、宇宙にもそのようなものが存在している(に違いない)という考えが「宇宙検閲官仮説」です。
提唱したのは、2020年にノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズ(1931~)です。

 では宇宙検閲官は、宇宙でいったい何を取り締まっているのでしょうか。それは「特異点」です。特異点とは、あらゆる物理法則が破綻をきたしてしまう「無限大」を導く点です。物理的には「あってはならない」不適切な場所なのです。

 ペンローズは1960年代に、「特異点定理」を発表しました。それによって、ブラックホールのように重力で崩壊していく物質(星)の内部では、特異点が自然に出現することが証明されてしまいました。

 それでも特異点がブラックホールの内側に隠されていれば、宇宙の「公序良俗」を乱すほど不適切な存在とはならないのですが、問題は、特異点にはどうやらブラックホールという“服”を着ていないものもあるらしいことです。
何も身にまとっていない特異点が存在すると、物理法則は宇宙について予測することが不可能になってしまい、たいへん困ります。

 このような厄介な特異点を、ペンローズは「裸の特異点」と名づけました。

そして、宇宙には、物理法則が予測不能となる事態に陥るのを避けるため、あたかも検閲官のように裸の特異点を取り締まってくれる存在がいるはずだと、願望をこめて想定したのです。これが宇宙検閲官仮説です。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8bde8566cb390816904f58b59cf263843f6252dd