副読本、原発事故記載減少 水素爆発、飛散地図も削除 福島大教授「公平性欠く」
7時間前
文部科学省が全国の児童生徒に配る放射線副読本で、東京電力福島第1原発事故の実態を示す否定的な単語が減り、放射線への肯定的な表現が増えていることが分かった。事故からまもなく12年。分析した福島大の後藤忍教授(環境計画)は「公的な教材で賛否が分かれるテーマを扱っているのに、公平性を欠いている。事故の教訓を伝えず、原発回帰への布石にしているのでは」と警鐘を鳴らしている。
副読本は原発事故後の2011年10月、文科省が放射線への理解促進を目的に作成。しかし放射線が身近にあり暮らしに役立っていることを記す一方、事故にほとんど触れていないと批判を受け14年に改訂。その後18、21年にも改訂した。
後藤さんが単語の出現頻度や前後のつながりから特徴を捉える「テキストマイニング」という方法で11、14、18年版を分析した結果、14年版で頻出した「汚染」「風評被害」「深刻」といった否定的な単語が18年版で減少。逆に14年版で減った「利用」という単語が18年版で増えていた。21年版も同様の傾向だった。
さらに14年版にあった水素爆発した原子炉建屋の写真や、放射性セシウムの飛散状況を示す広域地図は18年版で消えた。21年版では汚染水を浄化した処理水の海洋放出について政府側の見解のみを伝え、漁業者らの反対意見は触れていない。
副読本を授業で使う福島市の中学校の男性教員(44)は「放射線の危険を感じさせない表現が多く軽々しい。事故の記憶がない子どもが『大したことない』と捉えるのでは」と話す。19年には滋賀県野洲市教育委員会が「被災者の声がしっかり書かれていない」と回収したこともある。
文科省は取材に「最新の動向を踏まえながら、放射線の専門家などの意見をうかがって改訂している」と説明している。
後藤さんは事故後、原発推進の世論が形成されてきた経緯を調査。そこで事故前年の10年に文科省と経済産業省資源エネルギー庁が共同作成した副読本に目を留めた。
そこには「原子炉は放射性物質を閉じ込める五重の壁で守られている」「大きな地震や津波にも耐えられるよう設計されている」と強調されていた。後藤さんは「公的な教材で安全神話が広められていた。事故後の副読本もその反省がない」と批判。子どもたちに事実や教訓を知らせないことで「減思力(げんしりょく)」がじわじわ広がってきたと指摘する。
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https://www.at-s.com/sp/news/article/national/1200840.html