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「コオロギ食」への嫌悪感は「ネオフォビア(新奇性恐怖)」なのか
なじみの薄いコオロギ食へのネオフォビア
では、西洋人以外ではどうだろうか。昆虫食に対する心理的な抵抗感を、ドイツ人と中国人とで比較した研究によれば、中国人はドイツ人に比べて昆虫食を好意的に評価し、ドイツ人が加工されている昆虫食を好むのに比べ、中国人は未加工も加工もどちらも好みに違いがなかった(※13)。
すでに日本人の食生活は欧米化しているが、広い国土を持ち、生活環境が不均一な中国は、今まさに食生活が欧米化へ移行しつつある過渡期だ。中国全土の395人(女性224人、各世代、平均年齢30.2歳)を対象にした調査によれば、昆虫食を食べたことのある人とない人で結果が異なり、中国人でも食べたことのない人は昆虫食に対して嫌悪感を抱く傾向があることがわかった(※14)。
では、話題になっているコオロギ食はどうなのだろうか。
米国のミシガン大学の研究者によれば、コオロギは他の昆虫より粉末にしやすいなどの加工性で優れている一方、コオロギ食にした場合、ネオフォビア(新奇性恐怖)の対象になりやすいという(※15)。そのため、コオロギ食を忌避するタイプの人に対しては、原形を連想させないように粉末にし、クッキーなどのなじみ深い食品に混ぜて提供することが効果的としている。
昆虫食といっても多種多様なものがあるが、コオロギは世界的にも食材として注目を集めつつあるようだ。量販店などではコオロギの粉末を練り込んだ煎餅が販売されるなどしているが、一部の研究機関や業界団体がコンソーシアムを作って製造販売のガイドラインを策定しているものの、衛生面やアレルギー、輸入品などの安全性に関する明確な法規制はまだない。
日本人にとっての昆虫食は、イナゴの佃煮や蜂の子などがあり、それほどなじみの薄い食材ではないが、若い世代でそのことを知っている人は多くなさそうだ。また、コオロギはその色や形が、バッタよりも我々が忌み嫌っているゴキブリのほうにより似ている、ということもあるだろう。
肉食への贖罪意識やSDGsなど環境影響への懸念が強い欧米では、次第に昆虫食が市場に浸透し、昆虫が新奇性のある食材ではなくなりつつあり、それとともに受け入れられている(※11、※16)。
ネットなどでのコオロギを食べることについての日本人の拒否反応や嫌悪感は、一種のネオフォビア(新奇性恐怖)といえ、これは昆虫食になじみの薄い欧米人と同じ反応といえる。日本でもコオロギ食が一般的になれば、ネオフォビア(新奇性恐怖)を感じる人も少なくなっていくはずだ。
だが、コオロギとゴキブリの連想一致がその嫌悪感に強く影響しているとすれば、それはネオフォビア(新奇性恐怖)ではない。もっと根源的な情動反応であり、だとすればコオロギ食が一般的に広く受け入れられることはないだろう(※17)。
コオロギ食だけに特化した研究は少ない。もしコオロギ食を普及させたいのなら、こうした消費者の心理についてよく調べる必要がありそうだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20230301-00339232