アメリカ社会全体が「絶望死」を加速させてきた…
米国・国立衛生統計センター(NCHS)は2022年8月31日、2021年の米国人の平均寿命が76.1歳となり、2020年に比べ0.9歳短くなったとするデータを公表した。平均寿命の低下は2年連続で、1996年以来の低水準に落ち込んだ。

加えて先進国でも、フランス、イタリア、スウェーデンが軒並み平均寿命を落とし、日本でも、10年ぶりに、男性が81.47歳(-0.09歳)、女性が87.57歳(-0.14歳)と微減となった。

米国における2021年の76.1歳という平均寿命は、1997年の76.4歳を下回る数値であるが、1997年当時と比較して医療技術、健康に関する研究は格段に進歩しているのに、なぜか寿命は伸びていない、ということが大きな謎となった。

これに対し米シカゴ大学のケイシー・マリガン教授は、コロナ下の孤立などが絶望死を招いていると論文で指摘した。一方、米ブラウン大学のメーガン・レイニー准教授らは、「2010年代に自殺、薬物の過剰摂取、アルコールによる米国の死者が増加した。この3種類の死はすべて過去10年間、すべてのアメリカ人の間で増加している。これは、10年来の絶望感、不公平感の高まり、そして殺傷手段を容易に入手できるようになったことと並行して起きているのだ」と主張。コロナが絶望死の原因なのではなく、アメリカ社会全体が絶望死の原因ということを訴えたのだ。

以上の詳しい研究の内容を前編『10年ぶりに低下した日本人女性の平均寿命…先進国が軒並み短くなっている「衝撃的な理由」』で見てきた。

さて伊ローマ・トルヴェルガタ大学のレオナルド・ベチェッティ教授によれば、絶望死をもたらす心理的なストレスの3分の2は非貨幣的な要因、残りの3分の1は貨幣的な要因から生じると説いている。

「米国における絶望的な死の危機の出現は、主観的な幸福のデータを異なる視点から見ることを促している。絶望的な死の代理として、永続的なうつ病と相関する要因を分析すると、貧乏な収入、高い収入への期待、低学歴、低スキルの仕事、地位不安、社会的関係の悪化、失敗、愛情関係におけるショックと最も強い相関があることがわかった」(Avoiding a “despair death crisis” in Europe. The drivers of human (un)sustainability)のだという。

「経済格差」へのストレスであらゆる層が苦しんでいる
千葉大学教授(予防医学センター 社会予防医学研究部門)で、『長生きできる町』(角川新書)など医療・健康に関する著作を多く持つ近藤克則氏はこう語る。

「医療や健康の改善を考えたときに、貧困層に対して、よりよい医療や質の高い健康情報を与えて底上げを図れればいいと考えるのは、大事なことではありますが、一面に留まります。

現在では、人々は経済格差にさらされることにストレスを感じ、健康状態が悪くなっていることがわかってきています。健康状態が悪いのは、貧困層だけではありません。実は中金持ちより小金持ちの方が健康状態が悪い。そして、大金持ちに比べると中金持ちも健康状態が悪いのです。そうであれば、医療の底上げをすると同時に、経済格差そのものを減らしていく必要があります。

医療大国であるアメリカの平均寿命が、コロナ禍の前に3年連続で短縮したのも、そういったことが背景にあると考えられます。日本でもコロナ禍で増えた女性の自殺の背景にも、失業や経済的な困窮があったと思われます」

厚労省『平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数』によれば、がんや肺炎での死亡率は減ったものの、日本の平均寿命が落ちている。新型コロナで亡くなるのは100人に1人ぐらいと推計される中、今後の医療は、日本人のメンタルに大きく着目していくべきだろう。

https://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/世界中で人間の寿命が短くなっている-その原因は-経済格差というストレスにさらされること-だった/ar-AA17UmG5