https://news.yahoo.co.jp/articles/9e46fa50931700b6478836b17d13c508815f13e0?page=2
そんな宇垣さんが映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』についての思いを綴ります。

●作品あらすじ:疲れ果てた主人公エヴリンの日常。故郷の中国からエヴリンの住むアメリカへやって来た父親は、ガンコで介護も大変。娘は反抗的で、夫は優しいが頼りにならない。そんな中、経営するコインランドリーに監査が入り、国税局からイチャモンをつけられ、税金の申告をやり直さなければならなくなった。役人にしぼられていると、突然夫が豹変(ひょうへん)して…。

フツーの中年女性が新たなヒーローとして世界を救うアクション・エンターテインメントは、今年のアカデミー賞で最多10部門ノミネート、ゴールデングローブ賞ではすでに2部門受賞。賞レースを爆進中の本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか。(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

この脚本は正気で書かれたのか、製作会議の様子を思わず想像してしまった
よくわからないけどとんでもないものを見てしまった……。目をまん丸にして驚いたかと思えばあまりに下品なギャグにゲラゲラ笑い、家族愛に涙をぼろぼろ流す。情緒が忙しすぎて観賞後しばらく呆然としてしまった。ああ、この作品は祝福だ。

経営するコインランドリーの税金問題に優しいけど頼りにならない夫、保守的で頭の固い父親に反抗期の娘。なにかと人生がうまくいかない中年女性のエヴリンは、ある日、夫を乗っ取った別の宇宙の夫から「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と告げられた。異次元の自分にジャンプしその能力にアクセスすることでカンフーの達人となり、襲い来る敵に立ち向かう。

何を言っているかわからないと思うが、観賞後の私だってよくわからない。この脚本は正気で書かれたのか、製作会議の様子を思わず想像してしまった

あの時ああしていればと人生の“if”を考えだしたらきりがない。違う道を辿(たど)った自分がもっと幸せなのだとしたら、ここにいる自分の価値って何だろう?とすべてがやるせなく思えることもある。でもエヴリンの言葉に今この世界にいる自分を愛しく、誇らしく思えた。違う人生を選べはしないけど、今まで歩いてきたのとは違う一歩を踏み出すことはできるのだと。

「老人は退場しろ」、「同性愛者は不快だ」と平気で口にする人がいる悲しい時代にこの作品に出合えて嬉しい。映画はいつだって現実の何歩も先を描き、ここではない世界へと私たちを誘ってくれる。