会計時に「あれ？ 高い」と勘違い…「税抜き価格」強調の店が多い理由は？ 専門家が解説
2021年4月に「総額表示」が義務付けられて以降、多くの小売店や飲食店では、税抜き価格と税込み価格が併記されています。ただ、値札を見ると、税抜き価格が大きな文字で強調されている一方で、税込み価格は小さく書かれているケースも多く、会計時に「あれ？ 高い」と勘違いすることがあります。
税抜き価格を強調する店が多いのは、なぜでしょうか。また、事業者が総額表示を守らなかった場合、どのようなリスクが想定されるのでしょうか。税理士法人Bridge（東京都港区）代表で、企業経営にも詳しい黒田悠介さんに聞きました。
義務違反に関する罰則はなし
Q.小売店や飲食店では、税抜き価格が強調されている一方で、税込み価格が小さく書かれているケースが比較的多く見受けられます。税抜き価格を強調する店が多いのはなぜでしょうか。考えられる理由について、教えてください。
黒田さん「税抜き価格を強調することで、安く感じる顧客がいるため、結果として売り上げが伸びる可能性があることが考えられます。総額表示が義務付けられる前は、小売店や飲食店では、一般的に税抜き価格のみの表示が多かったです」
Q.では、税込み価格を強調した場合、売り上げに影響が出る可能性があるということでしょうか。
黒田さん「影響はあると思います。次のような表示が『総額表示』として認められます。
（1）1万1000円（税込）
（2）1万1000円（うち消費税額等1000円）
（3）1万円（税込価格1万1000円）
これらの表記が並んでいた場合、（3）が目を引き、安く感じるのではないでしょうか。
2004年4月にも一度、総額表示が義務化されました。ただ、実際に『売り上げが下がった』という声が多く、当時の状況について、日本チェーンストア協会は『消費税額を含む総額での表示に一斉に取り組みましたが、消費者に値ごろ感を訴求することができずに、ずるずると消費の減退を招きました』と公表しています。
その後、2013年10月に税抜き価格の表示も認める法律が施行されたものの、2021年4月から再び総額表示が義務付けられました」
Q.値札で税抜き価格を強調するケースと、税込み価格を強調するケースとでは、どちらの方が店にとってメリットが大きいのでしょうか。
黒田さん「小売店からは『税抜き価格を強調する方が、お得感があり売れ行きも伸びる』といった声が聞こえてきます。一方、2021年の改正に伴い、衣料品店『ユニクロ』を展開するファーストリテイリングやスターバックス コーヒー ジャパンなどの大手企業は、税込み価格のみの表示に変更しています。どちらの表示の方がメリットが大きいかを説明するのは難しいです。
税抜き価格の強調表示は『目を引き顧客を呼び込める』、税込み価格の強調表示は支払額が分かりやすく、『顧客に安心感を与える』といったメリットがそれぞれあると考えられます」
Q.「税込み価格を表示しない」「税込み価格を極端に小さく表示する」といった形で商品を売ったりサービスを提供したりした場合、どのようなリスクが想定されるのでしょうか。
黒田さん「税込み価格を表示しない場合、総額表示義務違反に該当しますが、罰金・懲役刑などの罰則は今のところありません。ただ、事業者が税込み価格を表示していなかったり、税込み価格を極端に小さく表示したりしていた場合、税務当局などが改善の指導を行うとしています。
税込み価格を表示しないことで、税抜き価格を税込み価格と消費者が誤認するようなことがある場合、財務省は『不当景品類および不当表示防止法（景品表示法）』に違反する可能性があると注意喚起をしています。
総額表示義務化以降、一部のガソリンスタンドで、ガソリン価格を税抜きで表示したケースがありましたが、景品表示法違反（有利誤認）に当たるとして、消費者庁が再発防止命令を出し、大きく報道されたこともありました。こうしたことは企業にとってマイナスイメージとなり、リスクといえます。
罰則はありませんが、総額表示は義務なので、しっかりとした対応が必要です」
https://news.yahoo.co.jp/articles/75dfac13d1ac948a7c341bb4645a2bc6e8f691f5
