性的欲求低下障害の男性にキスペプチンを静注する臨床試験:日経メディカル
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海外論文ピックアップ JAMA誌より
JAMA Network Open誌から
性的欲求低下障害の男性にキスペプチンを静注する臨床試験
性的欲求と性的興奮、陰茎の勃起に好ましい変化を確認
2023/02/24
大西 淳子=医学ジャーナリスト
英国Imperial College LondonのEdouard G. Mills氏らは、生殖機能の制御に関連する神経ペプチドとして知られるキスペプチンを性的欲求低下障害(HSDD)の男性に静注し、同時に視覚から性的な刺激を行って、機能的MRI(fMRI)検査での脳画像、血液中のホルモン濃度、勃起状態などを評価してプラセボ群と効果を比較するクロスオーバーデザインの臨床試験を行い、キスペプチン群は性的欲求や興奮を高めていたと報告した。結果は2023年2月3日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。
HSDDは男性の約8%に認められるが、現在のところ有効な薬物療法はない。PDE5阻害薬のような勃起障害治療薬は、性器の反応は改善するが、性的欲求には影響を及ぼさない。また、性腺機能は正常だが性的機能不全の男性にテストステロンを投与しても、性機能に改善は見られないことが報告されている。
キスペプチンについては、動物実験などを通じて生殖行動における役割の研究が進んでいる。著者らは先に、健康な男性にキスペプチンを投与すると、性的な刺激に対する辺縁系の活動が高まり、性的嫌悪が低下することを示した。今回の研究では、HSDDの男性患者にキスペプチンを投与して、生理的な影響や、行動への影響、神経系と内分泌系への影響をプラセボ群と比較するクロスオーバー臨床試験を英国の単独施設で実施した。
右利きの性的欲求が低い異性愛男性を募集し、HSDDと診断された人を組み入れた。うつ病や不安障害、勃起障害の原因になる基礎疾患がある患者などは除外した。血液検査で性腺機能が正常であることもチェックした。
条件を満たした参加者は、ランダムにキスペプチン群とプラセボ群に割り付けた。少なくとも7日間の間隔を空けて、キスペプチン群とプラセボ群を入れ替え、同じ試験を行った。参加者にはホルモンを測定するための静脈ルートを設置して、15分間隔で採血を行った。キスペプチン(1nmol/kg/時)またはプラセボ(コハク化ゼラチン溶液)は75分掛けて点滴静注した。
参加者には、割り付け薬の投与前と投与後に精神的な状態の質問票に回答してもらった。また、投与開始から30~60分に動画を見ながらfMRI検査を受けてもらった。最初の12分は、2種類の短い動画(性交のシーンと男女が運動しているだけのもの)を20秒ずつ交互に見てもらった。次に8分間の性的な動画を見てもらいながら、プレチスモグラフィーを利用したデバイスで、陰茎の勃起レベルを評価した。
主要評価項目は、血中酸素濃度依存型(BOLD)fMRIによる全脳の活動性とし、視覚からの性的刺激下で、キスペプチン投与中とプラセボ投与中の差を検討した。副次評価項目は、脳の注目すべき領域の活動性と精神スコアの相関、性的刺激に対する生理的な反応(陰茎の勃起)、質問票による性的欲求と性的興奮、全般的な気分、不安、非性的な注意などとした。安全性の評価は、有害事象、血圧、心拍数などを対象に行った。
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