回転ずし店での客による迷惑動画などが問題となっている中で、京都市内の銭湯が投稿したツイートが話題になっている。
客が使った毛染め液で赤くなった銭湯のタイルの写真。店主の「公共の場でのマナーを考えてほしかった」との願いを込めた投稿には、1万件以上の「いいね」がついた。
https://cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/Y4RB2LEULVIR5GXT6I3ZGCE4EE.jpg 誰もが利用する公共の場で連鎖する迷惑行為。社会のモラルは低下しているのだろうか。
「毛染め液でタイルが赤くなっているよ」。2月13日午後8時ごろ、京都御所の南で80年近く続く銭湯「初音湯」(中京区)の番台にいた担当者は常連客の女性に声をかけられた。
すぐに女湯を確認すると、洗い場の直径1メートル内のタイルの隙間は赤かびが発生したように染まっていた。
「ほんまにとれるんかなと心配だった」という初音湯代表の西出建一さん(53)は午前0時までの営業終了後、1人で漂白剤を一帯にかけたり、
浴槽専用せっけんを使いブラシで何度もこすったりして懸命に汚れを落とした。
無事に元通りになったのは午前4時過ぎ。通常の閉店作業を終え、帰宅したのは午前6時だった。
昨年4月に先代の父から店を継いだが、清掃には人一倍こだわるよう指導を受けた。
常連客からも「きれいな銭湯や」とその清潔さに高い評価を受けるからこそ、毛染め液の跡を消したときはほっとした。
店の入り口と脱衣所の目立つ場所には「毛染め禁止」の張り紙が掲示されていたが、毛染め行為は行われた。
毛染め液を使っていたのは観光客とみられる20代くらいの女性3人組。
様子を見ていた常連客が「アカンよ」と諭し、番台からも帰り際に注意するも「カラーシャンプーですから」と告げられたという。
西出さんはツイッターに投稿した理由について「別に彼女たちをたたこうという気持ちは全くありません。
ただ、公共の場でのマナーやモラルについて考えてもらいたかった」と説明する。
ヘアカラー商品を製造・販売する化粧品メーカー、マンダム(大阪市)によると、毛染め液が付着すると簡単に色を落とすことは難しく、毛染め液の使用を禁止するホテルも多い。
京都市内のあるホテルでは、約10年前、毛染め被害が発生したため、各浴室内に禁止のプレートを設置。
毛染めが認められた場合には清掃料として追加料金の支払いを求めている。担当者は「汚れが残ると清掃のために客室の販売ができず収益面でも影響が大きい」と話す。
市内の別のホテル担当者も「汚れがとれなかったら、次の宿泊者から清掃ができていないといわれ、ホテルのマイナスイメージになる」と苦労を語る。
また、京都府浴場組合によると、銭湯でのマナー違反は毛染め以外にも、古くから洗い場の占有があり、最近では脱衣所内でのスマートフォンの使用やサウナの使用を巡るトラブルが目立つという。
初音湯の西出さんは「お客さんに禁止事項ばかりを伝えることは控えたい。そのためにも互いのことを考え気持ちよく利用してほしい」と切望している。
◆SNS発達背景か
銭湯での毛染め行為について、「迷惑行為はなぜなくならないのか? 『迷惑学』から見た日本社会」(光文社新書)の著書がある金城学院大人間科学部の北折充隆教授(49)は
「自宅が汚れるのが嫌だ」などの気持ちと、「客である自分が怒られることはない」との思いが毛染めを行わせた可能性があると指摘。
「禁止の張り紙があるにもかかわらず、身勝手な理由によるものでたちが悪い」と話す。
一方で、最近の相次ぐ迷惑行為に対して、「社会全体のモラルが低下したとの見方は安直だ」とする。
かつても迷惑行為をする人は一定数いたが、現在は交流サイト(SNS)の発達で多くの人が瞬時に知ることができ、より目立つようになったことが要因だと説明。
「昔と比べてモラルが低いとはいえず、むしろSNSの発達などで社会のモラル意識は向上しているのではないか」との見方を示した。