https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220128/k10013453911000.html

障害があるとわかって、この子を迎えた~ダウン症~

ダウン症の妹がいる私(筆者)は、両親から「もし障害のことが分かっていたら、産めなかったかもしれない」と聞いて衝撃を受けた。

おなかの赤ちゃんに障害があるとわかった人のうち、9割が中絶を選んでいるという新型出生前検
決断を迫られた親たちを取材する中で、検査で障害が分かっても産むことを選んだ夫婦に出会った。

決め手は、夫婦が“本音”で話し合えたことだったという。
「9割の人は諦めるという話を聞いたけれど、不妊治療をしてようやく授かった命なので、簡単に『じゃあ諦めます』とは思えなくて、『産みたい』という気持ちがありました。それでも、中絶が可能なリミットまでは『やっぱり無理だ』、『でも産みたい』、『でもやっぱり無理だ』と、一日一日変わるんです。本当にジェットコースターに乗っているような感じでした」
秀行さん
「男性は本音が言いづらいと思います。自分から『よし、じゃあ産もうよ』と言うのも、結局産むのは女性だから無責任ではないかとか、『産まない』と言うことも無責任ではないかと思って…。本当に、ギリギリまで自分の本音は話せませんでした」
なかなか本音で話し合えず揺れる2人が決断するきっかけになったのが、NPO「親子の未来を支える会」との出会いだった。
匿名の掲示板や電話で、出生前検査を受けた人の相談に中立の立場でのり、納得のいく決断をできるよう支援している。

亜由美さん・秀行さん夫婦はこのNPOの紹介で、中絶を選択した親と、ダウン症の子どもがいる親子の2組ずつから話を聞くことができた。
そこで印象に残ったのが、成人したダウン症の息子と暮らす吉岡さん夫婦の話だった。
吉岡さんの息子 侑亮(ゆうすけ)さん 介護施設で働いている
亜由美さん
「小学校ぐらいまではイメージができたんです。たぶんゆっくり育っていくんだろうな、個人差はあるんだろうなというのは、周りやネットの情報でわかるんですけれど『その先』の情報は出ていなくて。吉岡さんのお子さんが、自分ひとりでバスと電車を乗り継いで働きに行っていると聞いたときに『えー』ってびっくりして。勝手に『あれはできないんだろうな』『これも無理なんだろうな』ってイメージを作って、私たちが諦めていたんです。実際に話を聞いてみて、それは違うんだとすごくよくわかったんです」
見ている方向が一緒になって、覚悟できた
亜由美さんと秀行さんは、聞いた話をもとに毎日話し合った。
秀行さん
「『話を聞いて、どう思った?』ということから始めて、『こういう部分は私たちの環境と似ているよね』とか、『こういう部分は、もっと不安になったな』とか。『じゃあ、ここはもっと考えようか』というのを繰り返していくっていう感じでした。『じゃあ、ここを調べてみるわ』とか」
亜由美さん
「それまではイメージでしかなかったのが、だんだんリアルになって。『ここは私たちでも乗り越えられるね、でもここはもっと不安だね』とかいう話に。最終的に、『何十年後の話は、私たち夫婦だけでも読めないんだから、今考えてもしょうがないよね』と思って」
秀行さん
「そもそも子どもは何のために産むのかというところまで考えました。普通考えないですよね。でも、最終的に妻が『僕を父親にしたい』って話をしてくれて。『2人で子育てをしてみたい』って言ってくれたのがいちばん大きかったですね。『じゃ、産もう』って。結構、スッと落ちましたね。妻がそう思ってくれていることがすごくうれしくて、『であれば、産みたいな』と思ってからは、めちゃくちゃスッキリしました」
亜由美さん
「私は、見ている方向が一緒になったなと感じたときからですね。つらいときも共有できるな、私一人が抱え込むんじゃなくて、夫と一緒に話していける、共有できると感じたときから、変わりました。そこで覚悟ができました。『産もう』って。NIPTを受けて、事前に障害のことがわかっていてよかったなと思います。事前に準備ができたし、自分たちの気持ちも整理できたし」
秀行さん
「いろんな人たちともコミュニケーションが取れたしね」
ふたりは今、とても楽しんで息子・叶采(かなと)くんとの時間を過ごしているという。
吉岡さんと叶采くん、秀行さん、亜由美さん
出産後、話を聞かせてくれた吉岡さん夫婦に叶采くんを会わせに行くと、「育児を楽しむ2人の姿が羨ましい」と話してくれたそうだ。
「自分は息子がダウン症であることを受け入れられるまでに時間がかかって、息子が小さかったときに子育てを楽しむことができなかった」と