異例の長期政権始動、習氏が早くも大きな勝利-米国、不意突かれたか

中国の習近平国家主席は世界に影響を及ぼすことのできる政治家として自身のイメージを高めようとしており、すでに一つの大きな勝利を手中に収めた。

昨年10月の中国共産党大会を経て党総書記として異例の3期目入りしていた習氏は、北京で今月開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)でも10日の全体会議で国家主席に3選された。 

その数時間後、中国政府はサウジアラビアとイランの外交関係正常化合意で仲介役を務めた。中国がどの程度関与しているのか詳細は不明だが、この合意は中国が示したロシアとウクライナを仲介する提案の信頼性を高めた。

習氏は近くモスクワでロシアのプーチン大統領と会談するほか、ウクライナのゼレンスキー大統領とも初会談を予定。米中関係をより安定させるためにバイデン米大統領と電話会談を行うとも見込まれている。

上海外国語大学中東研究所の範鴻達教授は「サウジとイランが北京で交わした合意がうまくいけば、世界の問題解決に中国が関与することへの国際社会の期待と中国の自信も高まる」と予想した。

米国はこの発表に不意を突かれたようだ。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はイランとサウジの合意が持続可能であれば、バイデン政権は「きっかけや誰がその場にいたかにかかわらず歓迎する」と述べながらも、「中国が自分たちの利己的な利益のために世界で影響力と足掛かりを得ようとする中で、われわれは確実に中国を注視し続ける」とくぎを刺した。

いずれにせよ、台湾の蔡英文総統が米国を訪問する計画や米議会に諮られる多数の対中法案など、今の米中関係は地雷原を歩いているかのようだ。米下院に新たに設けられた「中国特別委員会」のギャラガー委員長(共和)は2月28日、中国との関係を「21世紀の生活がどのようになるかを巡る存亡に関わる闘い」と表現した。

アジア・ソサエティ政策研究所のマネジングディレクター、ローリー・ダニエルズ氏は軍事行動やデカップリング(切り離し)の脅威にもかかわらず、中国の対米・対台湾貿易は過去最高水準にあると指摘する。

同氏は「台湾問題を解決するために武力を行使することは、依然として北京が取り得る最終手段」との見方を示し、「貿易・投資を促進する平和な外部環境と米台関係抑制の必要性という中国が抱える2つの優先課題が、今後数週間から数カ月の間、特に台湾が選挙の季節に向かう中で、意外な形で混ざり合うのを見ることになりそうだ」と語った。台湾総統選は2024年1月にも行われる予定。

中国が先月、ウクライナでの戦争を終わらせるため12項目から成る仲介案を提示すると大半の欧米諸国は無視したが、ゼレンスキー氏は習氏との会談にオープンだと表明。ブラジルのルラ大統領が数週間内に和平への取り組みについて話し合うため訪中すると見込まれるなど、中国の役割を重要視する首脳もいる。

象徴的勝利

報道によれば、習氏はゼレンスキー氏との会談に備えながら、プーチン氏と会うため来週にもモスクワに向かう可能性がある。ロシアのウクライナ侵攻以後、習氏はプーチン氏と4回会談しているが、ゼレンスキー氏とはまだだ。

習氏が欧米に受け入れられるような終戦を実現できるかどうかには大きな疑問符が付くが、ケンブリッジ大学地政学センターのウィリアム・フィゲロア研究員によると、中国がプーチン氏を外交的に支援することで受けていた圧力を踏まえれば、習氏はサウジとイランの合意で大きな勝利を達成したという。

「この合意は中国にとって重要な象徴的勝利を意味する。しかし、それが中国外交の成果なのか、それとも単に、全ての関係国が喜んで摘み取ることのできる低く垂れ下がった果実なのか、それほど明確というわけではない」とフィゲロア氏は話した。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-03-15/RRI6P3T0G1KW01