「また狙われる」草原に連なるメガソーラー 「景観では1円にもならない」

 熊本県の阿蘇山を背景に、草原に大規模太陽光発電所(メガソーラー)のパネルが延々と連なっていた。

 阿蘇地域は国内最大級の草原地帯。外輪山南側の山都町で、約119ヘクタール(福岡ペイペイドーム17個分)に広がるパネル約20万枚に、太陽光が照り返る。九州最大級のメガソーラーで、2022年9月に稼働し、出力約8万キロワット。九州電力川内原発1基の約1割に匹敵する規模だ。もともとは隣接する高森町の住民約30人が共同所有し、牛を放牧する「牧野」だった。

 「説明会が開かれ、売買は円満に進んだ」。共同所有者だった70代男性はこう振り返る。かつては農耕用として各戸が牛数頭を飼った。繁殖子牛を売った収入もあったが、農機具の機械化が進み、徐々に飼育されなくなった。草原を維持する野焼きも10年ほど前から行われていない。男性たちを含め合計三つの牧野組合が土地を売却した。

 阿蘇周辺は、草原や火山を特徴とする「阿蘇くじゅう国立公園」に指定され、国が管理する。メガソーラー建設は本紙が確認しただけで5カ所に及ぶ。公園を避けるような近接地域や、国立公園内でも規制が緩いエリアで相次いでいた。

 その一つ、外輪山の北側にある同県小国町。2月、牛がのんびりと休む牧野の斜面を登ると、山頂付近の草原で、約4万枚のパネル設置工事が進んでいた。国立公園内の「普通地域」ではあるが、届け出のみで建設できるエリアだ。

 牧野の組合員の男性によると、50年ほど前は約50世帯で計200~250頭の牛を飼育していたが、今は4世帯で50頭ほどに減った。建設地は私有の採草地だったが、既に使われなくなっていたという。

牧野に連なる採草地だったという山頂付近で建設されるメガソーラー=2月2日、熊本県小国町
 「景観を守っても1円にもならない。所有者はお金が入る方になびいてしまう」。町役場を訪ねると、組合員でもある職員が関係者の心情を代弁した。

同町では、別の草原1カ所でもメガソーラーが誕生。担当者は「阿蘇が世界遺産を目指すというが、明確なルールや支援策がなければ、草原維持は困難だ。メガソーラーが一般の人から見えにくい場所にあるのが救いだ…」と漏らした。

 外輪山の南側で、国立公園からわずかに外れる高森町でも2022年5月、約72ヘクタールのメガソーラーが稼働した。

 「また狙われる。そっとしていてほしい。(外輪山の内側の)カルデラ内の景観だけは守りたい」。高森町関係者は嘆く。

 背景には、使われなくなった牧野に目を付けた企業側のメリットが見える。草原は規制が厳しい「農地」ではなく「森林」扱いのため、要件が整えば森林法に基づく林地開発許可が出される。草原だと樹木伐採の手間が少なく効率的に開発しやすい事情もあるようだ。
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