WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では、さまざまな選手が話題になったが、もっとも評価の振れ幅が激しかったのが、村上宗隆選手ではないだろうか。準決勝でサヨナラ逆転打を放つとSNSでは「村神様」「村上最高」がトレンド入りしたが、それまでは不調が続いていた。(フリーライター 武藤弘樹)

● 湧いた日本列島 村上選手が放ったサヨナラ逆転打

 WBC第5回大会は、侍ジャパンが優勝を勝ち取るという、日本国民にとっては最高の形で幕を下ろした。日本代表のWBC制覇はこれで3度目となる。

 優勝が決定した瞬間以外で盛り上がったピークを挙げるとするなら、おそらく多くの人が「準決勝メキシコ戦、村上選手のサヨナラ逆転打」を思い浮かべるに違いない。大会中不調に苦しんだ村上選手の、自身の全存在を証明するかのような痛烈な一撃に、日本全土が歓喜した。スポーツはこれがあるからたまらない。

 ちなみに、筆者はリアルタイムで野球中継を見ておらず、事後他の人たちが大変興奮して喜び話し合っているのを見て、何が起きたかを知ったのであった。

 当時の国内Twitterでは村上選手に関連するハッシュタグがいくつか生まれ、トレンド入りもしていた。不調をたたかれたり、心配されていたりした村上選手が結果を出した瞬間に、一気に称賛の声であふれるという、俗に言う「手のひら返し」が観測された。そこで今回、筆者が気の赴くままに「手のひら返し」について簡単に研究してみると面白い気付きがあったので、それをシェアしたい。

   また、決定的瞬間をリアルタイムで見逃した筆者と同様の哀愁を胸に秘める同志に向けて、「我々がいかに不運でみじめでかわいそうか」ということについても言及するつもりである。傷をいくらかなめあえれば幸いである。

● 村上選手を取り巻くハッシュタグ 手のひら返しに至るまで

 WBC時の村上選手に関するハッシュタグには、好意的なものとそうでないもの、また、文脈や使い手によって「どちらとも取れるもの」があった。

 好意的なのはたとえば「#生き返れ村上」があった。これは、優秀な村上選手がよりにもよってWBCで不調に陥って苦しむさまを見たファンの、「復調して活躍してほしい!」という願いの込められたハッシュタグである。

 文脈によって意味合いが変化するものとしては「#村上と心中」が挙げられる。今回、逆転タイムリーを打つまではディスられまくった村上選手だが、彼を起用し続ける栗山英樹監督にも批判が集まっていた。「#村上と心中」は、栗山采配を受け入れた人にとっては己の覚悟を表明する言葉となり、栗山采配を否定したい人にとっては愚行の極みを表現する言葉として用いられることとなった。

 一方、どちらかというと好意的でないハッシュタグには「#村上マジ」というものがあった。これはどういう意味かというと、「村上は本当…」というニュアンスで、この「…」に入る言葉は「おのおのがフィットするものを思い浮かべて埋めてください」という構えである。「…」は、ファンの得も言われぬ激情を表してもいるので、ネガティブな言葉が入ることが想定されている。

 この「#村上マジ」に着目して、メキシコ戦でのTwitterの世論を追ってみたところ、以下のように変化していった。

●序盤
村上選手を擁護する声多数(半分ほどはこの印象)。「本人が一番苦しいはず」「信じて応援しよう」「問題ない。がんばれ」など。加えて、村上選手批判に対してたしなめる声や怒りの声なども。
●試合始まってやや経過時点
批判の割合が増加。批判に対して激怒している人も現れる。村上選手への恨みを募らせた執念深さから、ネガティブ勢がしぶとく残っていった。
●村上選手の最終打席前
「打ってくれ!」「頼む!」など、祈りの声が多くなり、批判の割合が薄まる。
 このあと、村上選手はご存じの通り歴史に残るサヨナラ逆転タイムリーを放ち、神となった。「#村上マジ」は文言そのまま、意味は正反対の、称賛のハッシュタグとなった。

 それまで村上選手をクソミソに言っていた人も、日本を勝利に導いた立役者となった村上選手を認めずにはいられない。これが「手のひら返し」である。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e6dc634db4f94cf55075a3deee3618be88b74bb6?page=1