「信じられません」と研究者、「広まる可能性が高い」とも、南アフリカ沖

シャチがホホジロザメを狩る様子を初めて記録した映像。ほかの4頭のシャチがいる前で「スターボード」がサメの肝臓を取り出している。(解説は英語です)
 2023年2月、南アフリカのケープタウンの海岸に19頭のエビスザメの死骸が打ち上げられた。打ち上げられた死骸はすべて同じ状態だった。胸をざっくりと裂かれ、そこから肝臓を吸い出されていたのだ。ほかの臓器は無傷だった。

 海岸の近くに住むアリソン・タウナー氏は、サメを殺した犯人がすぐにわかった。まるで外科手術のように正確無比なやり方は、「ポート」と「スターボード」と呼ばれる2頭のオスのシャチの特徴的な手口だ。ポートの背びれは左に、スターボードの背びれは右に曲がっているので、2頭はすぐに見分けられる(ちなみに「ポート」は英語で左舷、「スターボード」は右舷を意味する)。2頭は少なくとも2015年からこの方法でエビスザメやホホジロザメを襲っていて、今回も2日前に付近の海域で姿が目撃されていた。

南アフリカ、ローズ大学のサメ生物学者で博士候補生であるタウナー氏は、「『またやったか』と思いました」と語る。「彼らを止めることはできません」

 ポートとスターボードをめぐる最大の謎は、彼らの捕食行動がユニークなものであるかどうかだ。シャチは世界中に生息していて、幅広い食性や行動様式が見られ、サメを食べるものもいる。サメの内臓、特に肝臓は、脂肪分に富んでいるからだ。

 しかし、今回のような一貫性あるやり方でサメを捕食するシャチの存在が学術文献に記載されたことはこれまでなかった。それだけではない。2頭のシャチの観察から、彼らがほかのシャチにサメの肝臓の取り方を教えていることが示唆されたのだ。これが本当なら、動物界における「文化」の一例としても非常に興味深い。

「かつてない特殊な技術」
 南アフリカの南西岸に位置するフォールス湾にはエビスザメが生息していて、いつもならスキューバダイバーは1回のダイビングで70頭ものサメを見ることができる。けれども2015年11月9日、ダイバーたちは異変に気づいた。一夜のうちに、サメたちがダイビングエリアからいなくなってしまったのだ。

 その後、海底で数頭のエビスザメの死骸が見つかった。どの死骸も、同じやり方できれいに切り裂かれていた。ダイバーたちは写真を撮ってタウナー氏や他の研究者たちに見せ、この傷が漁業によるものなのか、動物の攻撃によるものなのかを議論した。

 1つの可能性はシャチだった。南アフリカでは珍しいが、2009年以降、フォールス湾でシャチが目撃されるようになっていたからだ。ただし当時は、ミナミアフリカオットセイなどの海洋哺乳類を捕食していることしか知られていなかった。

 ホホジロザメの動きを研究しているタウナー氏は、「誰もが『もしかしたら』と思っていました」と言う。「けれども、このような展開になるとは、私は夢にも思っていませんでした」

https://youtu.be/aK0iqgO_inE