https://news.yahoo.co.jp/articles/bf65a33e8466b74d75d51522eb602c4a44d4a330
「小さい時から夢だった」知的障害者は結婚、子育てなぜダメ?経験者はわずか8%、5人に1人は周りから「制限された」
北海道にある障害者のグループホームで、知的障害のある人たちが不妊手術や処置を受けていたことが昨年、明らかになった。恋愛や結婚、子育てについて全国の知的障害者や家族らはどう考えているのか。共同通信がアンケートをした結果、さまざまな声が寄せられた。「結婚は小さい時からの夢です」と思いをつづる当事者。「きれい事では済まない」と複雑な気持ちを明かす親。明らかになったのは、不妊手術に至らないまでも、その手前でさまざまな制限を受けている実態だった。(共同通信=沢田和樹、江森林太郎、市川亨)
▽社会全体で壁、自己決定権阻む
アンケートは1〜2月に実施。知的障害者やその親らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」などを通じて行った。家族・親族、支援者から585件、知的障害のある本人から176件と計761件の回答を得た。
その結果、20代以上の当事者のうち約5人に1人(19%)は恋愛や結婚、出産について周囲から反対、制限された経験があることが分かった。家族らの回答で反対や制限をしたのが誰かを見ると、家族・親族が最も多く、学校、利用施設と続いた。
実際に結婚や同棲、子育ての経験がある人はわずか8%。家族らの61%は「本人の希望を聞いたことも話し合ったこともない」と答えた。知的障害者の結婚や出産には社会全体で壁があり、当事者の自己決定権が制限されている実態が浮き彫りになった。
周囲が不妊手術や処置を勧めたり、受けさせたりしたことがあるか聞くと、「ある」との回答が20件余り寄せられた。ただ、多くは20〜30年前に親族から勧められたといったケースで、北海道のように施設が関与した近年の事例はなかった。
▽「生まれた子どもがいじめられないか」
家族らの賛否は「恋愛」と「結婚」では賛成が多かったが、「子どもを持つこと」については反対が58%と、賛否が逆転した。
反対する人からはこんな意見が寄せられた。「恋愛は自由だが、命の責任を持つ子育ては、生まれてくる子に対して無責任。夫婦2人だけでなく、子育てまでというのは支援の域を超えている」「生まれた子どもは親の障害を受け入れられるのか。いじめられないか。ヤングケアラーになってしまうのではないか」
一方で「恋愛や結婚、子育ては誰にとっても平等な権利だ」といった意見も多かった。「障害者が子育てしやすい仕組みがあれば、全ての人が育てやすい社会になるのでは」「支援態勢を築き、社会の偏見をなくしていく活動も重要だ」と書く人もいた。
▽姉の結婚すぐさま否定、今は後悔
徳島県吉野川市の伊沢みどりさん(54)は、中度の知的障害がある姉(58)の結婚を拒んだ過去への後悔をアンケートに寄せた。
姉は父が亡くなったのをきっかけに2008年、徳島市内の施設に入所した。1年ほどたったある日、伊沢さんは面会の際、姉から「お嫁さんに欲しいと言ってくれている人がいる。結婚したいんよ」と告げられた。
同じ施設の男性で、相手の両親も歓迎しているのだという。だが伊沢さんは、すぐさま否定した。「無理よ。何を言ってるの」
相手の家族の負担になるのは目に見えている。親の死後はどうするのか。伊沢さんにも、後に発達障害と診断される高校生(当時)の長男が引きこもっていた事情があり、姉の結婚生活を想像する余裕はなかった。
共同通信の調査に対し、結婚や子育て支援を望む思いをつづった家族らの回答
姉は下を向き「なんで?嫌じゃ」と繰り返した。いつもは施設から帰る伊沢さんを車まで見送りに来る姉が、その日は来なかった。以来、姉から結婚の話が出ることはなかった。
▽「母親になる人生あったかも」
伊沢さんはその後、2人の発達障害の子どもと過ごす中で「障害があっても笑顔で幸せになること」の大切さを学んだ。2021年までは、徳島県で発達障害の子どもがいる親の会の代表を務めた。そんな日々で、ふと気付いた。「自分は姉のために何かできたのではないか」
「姉は優しい人」と言う伊沢さん。姉から送られてくる手紙にはお礼の言葉ばかり。編み物が好きで、よくニット帽を編んでくれる。姉が身近な存在だったからこそ、子どもたちの障害も受け入れられた。大切な存在だと確認するたびに後悔が強まる。
「人を好きになるのは素晴らしいこと。姉にも母親になる人生があったかもしれない。信頼して相談できる人が私にいれば、答えは違ったと思う」。家族の相談に乗ったり、本人の生活を支援したりする態勢をつくってほしい。切にそう願う。