──まず、ここ数年、プロレスラーとして本格的に活動を再開された真意から。
佐山「はい。実はあるとき、僕に向かって『プロレスより格闘技の方が凄いじゃん』と馬鹿にした人がいたんですね(苦笑)。
僕は総合格闘技(修斗、掣圏道)の創始者ですが元々プロレスラー。したがって、これは聞き捨てならんと思ったわけですよ。
ところが、そう言われて久しぶりにプロレスを見てみたら…これじゃあ馬鹿にされても仕方ないと納得するより他なかった」

──というと?
佐山「はっきり言って、リング上は格闘とかけ離れた面白おかしい動きを競う学芸会になっていて、
プロレスの父・力道山や、僕の師であるアントニオ猪木がもっとも大切にしていた闘いの迫力が、もう、すっかり失われていたんです」

──プロレスにおける闘いの迫力? 具体的にはどういうことでしょうか。
佐山「プロレスラーは厳しい練習を積んで忍耐力を養い、格闘技術を磨き、いざとなればセメントといわれるガチンコ勝負をやれる強さがなければいけない。
若い頃、僕は新日本プロレスの道場で徹底的にそう叩き込まれました。実際、あの頃の猪木さんはリングで派手な動きはせず、身に付けたセメント力が放つ迫力と凄みで観客を魅了してました。
たとえば停止した状態での手首の取り方、グラウンドでの体重の使い方といった細かい技術に嘘がなかったからこそ動きが自然で攻防に説得力があったそれがストロングスタイルと呼ばれるプロレスで、観客にもちゃんと伝わってたんですよ」

──なるほど。しかし、初代タイガーマスクの代名詞は『異次元殺法』と呼ばれたアクロバチックな大技でしたが?
佐山「昔のビデオをよく観てもらえばわかります。僕の試合のほとんどはベーシックな技術の攻防で、空中技を出すにしても決して不自然な場面では飛んでいません。
自分で言うのも何ですが、初代タイガーのプロレスはストロングスタイルと観客の夢が高い次元で融合していたからこそ爆発的ブームを呼んだ。
その後、僕がUWFで始めたキックを前面に出した格闘スタイルにしても、つまりはそれをガチンコ寄りにアレンジしただけのこと。すべては、当時の新日本にあった基本技術の組み合わせだったんです」

──’05年、佐山さんは自らリアルジャパンプロレスを旗揚げされました。プロレス氷河期といわれて久しい時代、あえて新団体をスタートさせた真意とは。
佐山「プロレスが馬鹿にされるようになったのは、繰り返しますが、格闘の技術を失って理屈に合わない動きばかりになってしまったからです。
その辺を猪木さんもIGFという新団体で訴えようとしているのですが、ちょっと空回り気味。
現役時代の猪木さんならやれたスリリングな異種格闘技戦のようなスタイルも、今のレスラーがやれば全然別物になってしまう。
そもそも格闘技寄りのプロレスはすでにUWFがやり尽くしてますし、そんな回りくどいことをやるくらいなら、もう、はなから格闘技をやればいいんです。
僕はそれらすべてを経験した身なのであえて言いたいのですが、見せ方として、格闘技とプロレスはきちんと線引きするべき。そのうえで堂々とプロレス本来の迫力を見せていけばいいんですよ。
ただ、そういう方向へ軌道修正するにしても、僕らの下の世代に、それができるレスラーが数えるくらいしかいなくなってしまっている厳しい現実が一番の問題で…だったら自分が育てるしかない! と、それがリアルジャパン旗揚げに踏み切った最大の理由です」
https://kkimura.exblog.jp/