坂本龍一と中谷美紀が奏でた音楽。“知性あるアンドロイド”、その普遍性を探る(Toru Mitani)
坂本龍一の訃報を受け即座に辿ったのは、中学生の頃のバイブルだった中谷美紀の楽曲たちだ。
坂本龍一へのリスペクトあってこその、ある種の“ボーカロイド”的なアプローチ。この音楽は唯一無二だったと、今もなお心を打つ。
『戦場のメリークリスマス』(1983)を今一度観直したい気持ちに駆られつつプレイバックしたのは、俳優・中谷美紀の楽曲たちだった。
90年代の中谷美紀はデビューして間もないという“空白”も手伝って、シンガーとして登場した際、透明感と神々しさがほとばしっていた。
当時中学生の僕は、そう記憶する。
生活感がなく、どんな少女時代を歩んできたのかがわからないミステリアスさ。その圧倒的な美しさは異様でもあった。
しかもデビュー曲「MIND CIRCUS」(1996)は世界の坂本龍一が手がけるというニュース。君の誇りにを汚すものから君を守りたい、
とうサビからのスタート、その透き通ったピュアな声にハートは即座に射抜かれた。言うなれば、小室哲哉プロデュースの安室奈美恵とは
また別のベクトルで(僕は安室奈美恵のファンです)。
続くシングル「STRANGE PARADISE」(1996)。「愛しさには運命の音がする」という聴く者の“経験”を刺激する直球のリリックとシンプルで美しいメロディが織り重なる。
J-POPという約5分間に、ポップさと危うさが混在しているような世界観。その後、「砂の果実」「天国より野蛮」「いばらの冠」(すべて1997)と、タイムレスな名曲を立て続けにリリース。
ハイライトは、主演を務めたドラマ「ケイゾク」のテーマ曲「クロニック・ラブ」(1999)だろう。当時、北欧やUKでトレンドだったと記憶するミニマムなデジタルサウンドがトラックとなり、
彼女の歌声がより神々しく響く。上品で欲張らないアレンジ、平熱から時としてヴィヴィッドに高揚するメロデイラインは、いつ聴いても普遍的だ。
かつ、アブストラクトなMVは今眺めてもかなり刺激的。
https://www.vogue.co.jp/article/toru-mitani-ryuichi-sakamoto-miki-nakatani