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第1章
総 説
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校がある一方で,例えば,歴史的経緯に影響され,いまだに道徳教育そのものを
忌避しがちな風潮があること,他教科等に比べて軽んじられていること,読み物
の登場人物の心情理解のみに偏った形式的な指導が行われる例があることなど,
多くの課題が指摘されている。道徳教育は,生徒の人格の基盤となる道徳性を養
う重要な役割があることに鑑みれば,これらの実態も真摯に受け止めつつ,その
改善・充実に取り組んでいく必要がある。
このため,平成 26 年2月には,文部科学大臣から,道徳教育の充実を図る観
点から,教育課程における道徳教育の位置付けや道徳教育の目標,内容,指導方
法,評価について検討するよう,中央教育審議会に対して諮問がなされ,同年3
月から道徳教育専門部会を設置し 10 回に及ぶ審議を行い,教育課程部会,総会
での審議を経て,同年 10 月に「道徳に係る教育課程の改善等について」答申を行っ
た。この答申では,
① 道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)として位置付けること
② 目標を明確で理解しやすいものに改善すること
③ 道徳教育の目標と「特別の教科 道徳」(仮称)の目標の関係を明確にす
ること
④ 道徳の内容をより発達の段階を踏まえた体系的なものに改善すること
⑤ 多様で効果的な道徳教育の指導方法へと改善すること
⑥ 「特別の教科 道徳」(仮称)に検定教科書を導入すること
⑦ 一人一人のよさを伸ばし,成長を促すための評価を充実すること
などを基本的な考え方として,道徳教育について学習指導要領の改善の方向性が
示された。
この答申を踏まえ,平成 27 年3月 27 日に学校教育法施行規則を改正し,「道徳」
を「特別の教科である道徳」とするとともに,小学校学習指導要領,中学校学習
指導要領及び特別支援学校小学部・中学部学習指導要領の一部改正の告示を公示
した。今回の改正は,いじめの問題への対応の充実や発達の段階をより一層踏ま
えた体系的なものとする観点からの内容の改善,問題解決的な学習を取り入れる
などの指導方法の工夫を図ることなどを示したものである。このことにより,「特
定の価値観を押し付けたり,主体性をもたず言われるままに行動するよう指導し
たりすることは,道徳教育が目指す方向の対極にあるものと言わなければならな
い」,「多様な価値観の,時に対立がある場合を含めて,誠実にそれらの価値に向
き合い,道徳としての問題を考え続ける姿勢こそ道徳教育で養うべき基本的資質
である」との答申を踏まえ,発達の段階に応じ,答えが一つではない道徳的な課
題を一人一人の生徒が自分自身の問題と捉え,向き合う「考える道徳」,「議論す
る道徳」へと転換を図るものである。