お釈迦様の誕生祝い 人形町 地域活性化を花まつりに託す 寺と商店街 一体で盛り上げ
四月八日は花まつり。お釈迦(しゃか)様の誕生を祝う日だ。各地のお寺では花御堂(はなみどう)が設けられ、甘茶をかけてお祝いする。仏教行事だが、地域総出で祝う街も多い。その一つ、東京都日本橋人形町の小さなお寺は、花まつりの歴史と、間接的だが、少しだけ関係があるそうだ。寺を訪ねた。
地下鉄人形町駅近くにある大観音寺(おおがんのんじ)。境内の「韋駄天(いだてん)尊」が俊足の守り神とされ、マラソンの季節にランナーが完走祈願することで知られるが、境内は狭く、大通りに面しているのに目立たない、小さなお寺だ。
だが、花まつり当日は毎年、参拝者の長い行列ができ、境内に縁台が並ぶ。昨年は約千八百人が訪れた。
「甘茶とともに、地元の飲食店が用意したお菓子を縁台で振る舞います。参拝後はスピードくじ。うちの店の和菓子など『人形町の名産品』が当たりますよ」
そう話すのは人形町の和菓子製造販売「彦九郎」代表、今江嘉利さん(49)。
ここの花まつりは、人形町商店街協同組合の主催行事だ。今江さんは組合の青年部「三水会」会長。和菓子店主として盛り上げる。
偶然だが、今江さんは、花まつりとは縁が深い。
「次女の誕生日なんですよ、四月八日が。名前も花まつりにちなんで『花穂』です」。人形町の生まれ育ち。「人形町が好きですから、人がたくさん来て、活気があってほしい」と花まつりを支える思いを語る。
以前は、寺だけで粛々と花まつりを催していた。
二〇〇二年に商店街協同組合の当時の理事長が先代住職に「一緒にやろう」と持ちかけた。秋の「人形町まつり」と並ぶ、春の一大行事として定着した。
明治座、水天宮、日本橋七福神など観光スポットが多く、甘酒横丁などには老舗飲食店が多い人形町だが、活性化には課題があるそうだ。
「浅草と銀座の間にあるんで、ここは(観光客が)飛び越えちゃうんですよね」と、「三水会」副会長で保険代理業、河瀬賢介さん(43)は言う。老舗が閉店して跡地にチェーン店が、ということも少なくない。
「商店街の皆さんは心強い。もっと人形町の存在感を示したい」と大観音寺の関口真流住職(65)は話す。同寺の宗派は聖観音宗で、本山は浅草寺(台東区)だ。
「仏生会(ぶっしょうえ)」「灌仏会(かんぶつえ)」などの名で古くから行われてきた行事が、「花まつり」の名で催され始めたのは明治の終わり。キリスト教のクリスマスのように、お釈迦様の誕生日を、仏教の宗派を超えて盛大に祝おうという運動が、各地で起きていた。浅草寺でも、その動きはあった。
記録によると、一九一二(明治四十五)年四月八日、浅草寺境内にあった伝道会堂で「花まつり」が盛大に催された。東京新聞の前身「都新聞」は、この日の仲見世通りは甘茶をもらおうと空き瓶や手桶(ておけ)を持つ人で「さながら火事場騒ぎ」、振る舞った甘茶は「四斗樽(よんとだる)に四十本とやら」と報じている。
一六(大正五)年には、日比谷公園で、各宗各派連合の花まつりが初めて開催された。これも「都新聞」が伝えている。十万人が集まり、百人余の稚児らが花御堂を一周。インドの人々の花まつりダンスも披露され、夜までにぎわったという。
そして現代。多くの寺が八日に「花まつり」の行事を行う。浅草寺は午前十時?午後三時ごろ、大観音寺は午前十一時?午後三時。築地本願寺(中央区)は九日の日曜だ。詳細は、各寺に問い合わせを。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/242649