ノルムを「変えてみせる」のではなかったか
黒田総裁のラスト会見で最もツッコミどころ満載だったのは、2%物価目標を達成できなかった理由として「ノルム」を何度も挙げたことだろう。
ノルムとは、過去の経験から「物価は上がらないものだ」と思い込んでいる日本の社会通念を指す。
総裁いわく、「長きにわたるデフレの経験から賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行、いわゆるノルムが根強く残っていたことが影響し、2%の物価安定の目標の持続的安定的な実現までは至らなかった点は残念だ」。
振り返れば、黒田総裁は2013年4月、「2年で2%物価目標を達成する」と高らかに宣言して異次元緩和に乗り出した。ところが2年を過ぎ、3年4年……7年8年と経っても2%目標はいっこうに達成できない。
その間に日銀が持ち出した言い訳はいくつもある。原油価格の下落、携帯電話の値下げ……。それも使い尽くして最後に持ち出した言い訳が「ノルム」だった。
だが、そもそもそのノルムを「変えてみせる」というのが異次元緩和の目的だったのではないか。
ようやく訪れた「一問限定」の質問機会
会見でそれにあえて触れず「ノルム」の言い訳を繰り返す黒田総裁の答弁を聞いているうちに、その点を確認したくなった。会見終盤、「一問限定」の条件ながら、ようやく質問の機会が訪れ、こう質問した。
――物価目標が達成できなかった理由にノルムを挙げていますが、そもそも異次元緩和はそのノルムを「2年で変える」と言って始めたものです。それが10年経っても変えられなかったということは、当初目的からすると異次元緩和は失敗だったのでは?
これに対する黒田総裁の答えが冒頭で紹介した一言だった。「そういうふうに全く思っておりません!」
黒田総裁の、記者会見に対する向き合い方についても指摘しておきたい。一言でいえば、黒田会見は「大事なことを話さず、やりすごすための会見」だった。
https://digital.asahi.com/sp/articles/ASR47778GR47ULZU005.html