「AI(人工知能)」の能力を向上させる開発手法として知られる機械学習。だが、実際に誰がどうやってAIを学習させているかを公にしている企業は少ない。

米紙の記者が大手IT企業からAIの学習作業を受注するインド企業を取材。その仕事内容や労働環境は、「最先端技術」や「希望のある未来」とはかけ離れたものだった。

こうした人力作業に対し、大手IT企業は沈黙を貫く。作業を通じて大量の個人データを他企業と共有していることにに対する批判の声も、日増しに高まっている。

2019年本紙はシリコンバレーの「魔法使いたち」がめったに首を縦に振らないその“内幕”を垣間見ることができた。インド国内のほか訪問した拠点すべてで、人間がひたすら反復作業を繰り返してはAIを学習させていた。いずれも「アイ・メリット(iMerit)」という会社の事業所だ。

だが、事業所で目にしたのはおよそ未来とは思えない光景だった。少なくとも「自動化」「ハイテク」という言葉から連想される職場ではない。作業者が閲覧する画像のなかには、ポルノや斬首画像などの暴力的なものも含まれる。プラダンと同僚たちの賃金は、月額150~200ドルの間だという。

彼らの職場はコールセンターか、支払い処理業務センターのようだった。そのうちのひとつが、かつての賃貸集合住宅でいまはプラダンが働いているブバネーシュワルの古いビルだった。歩行者に三輪タクシー、露天商でごった返す低所得層の居住区にそれは建っていた。

ブバネーシュワルで見たようなAIの学習拠点は、中国、ネパール、フィリピン、東アフリカ、アメリカにあり、数万人の社員が毎日タイムカードを打刻してAIの学習に励んでいる。

加えて、さらに数万人もの個人ワーカーが在宅で業務を請け負い、「アマゾン・メカニカル・ターク(Mturk)」のようなクラウドソーシングサービスを介してデータのラベル付け作業をおこなっている。

メカニカル・タークでは誰もが雑用をアメリカ内外の個人事業者に発注でき、ワーカーはラベル付け業務1件につき数セントを受け取る。

研究者らは、AIの学習データ量をもっと少なくしたいと考えている。だがそれが実現するまでの間は、人間の労力が不可欠だ。

「これはテクノロジーの影に隠れ、いまなお拡大し続けるもう“ひとつの世界”です。このループから労働者を解放するのは困難です」と、マイクロソフトの人類学研究者メアリー・グレイは指摘する。

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