「外国人労働者が消えた」インバウンド復活の裏側 宿泊・飲食業界の8割で人材不足が加速している

インバウンドの復活に対応できない現場
「エクスキューズミー!」
東南アジアからの観光客とおぼしき予約客のいらだたしげな声がフロントに響き渡る。他の客への応対に汲々とするスタッフは、明らかにその声に気づいていながらも無視を決め込む。上質であるはずの高級ホテルの館内で、およそ「おもてなし」とはかけ離れた光景が繰り広げられていた。

ここ最近、観光業の現場では、こうした光景がめずらしいことではなくなっている。
インバウンドが復活してきた。4月19日の日本政府観光局(JNTO)の発表によると、3月の訪日外国人の数は181万7500人。コロナ前の2019年の水準と比べて、7割近くまで回復してきた。4月5日から、中国からの渡航者の水際対策が緩和され、これから中国人観光客も本格的に戻ってくる。大阪・関西万博が開かれる2025年には、訪日外国人の数がコロナ前の水準に戻るという見方も強い。
宿泊や飲食サービス業の現場はてんてこ舞いだ。至るところから、「仕事が回らない」という悲鳴が聞こえてくる。全国旅行支援の効果で、すでに日本人宿泊者はコロナ前の水準に戻っている。そこに外国人客の急増が重なり、現場が相当な負担を強いられているのだ。
「お客様が押し寄せてきているのに、受け入れられない状況が続いています。スタッフ全員が二刀流、三刀流の業務をこなしても、まったく追いつかないですから。ホント忸怩たる思いですよ」

京都の老舗旅館に勤務するS氏がこう言って顔を曇らせる。この旅館は、「2月から宿泊客を最大収容人数の6割程度に絞っている」という。
帝国データバンクが発表した1月時点の調査でも、人手不足を感じる企業の割合(非正社員)は、旅館・ホテルで81.1%、飲食店で80.4%に及んだ。全体の中でもこの2業種が群を抜いており、旅館・ホテルにいたっては過去最高の割合である。
「業務効率化を図らなければならないことはわかっています。ただこのギリギリの人員では、できることにも限界があるんです」
まさにこの声が、今の現場の切実な思いを代弁しているのだろう。
宿泊や飲食サービス業の多くは、コロナ禍の休業や業績不振で泣く泣く従業員を解雇してしまった。そのため、メインプレーヤーがことごとくいなくなっている。客数の急回復を受けて態勢を立て直そうにも、そう簡単には対応できないのだ。
そしてこの3年間で、この業界は雇用が不安定という印象がすっかり定着してしまった。いったん他業種に移った人材が、また戻ってくる見込みは薄い。もともと、処遇が低いわりに仕事がハードというイメージを持たれがちな業界でもある。前出の京都の旅館では、「今は時給1300円でもパートの応募がこない状況」だという。

宿泊・飲食サービス業に外国人が集まらないワケ
日本人が集まらないのなら、「外国人でもいいので採用したい」と考える企業は少なくない。観光業界の多くは、人と人とが接するサービスで成り立っている。無人化や自動化を図り、人手をかけない方法をひたすら追求するのは本末転倒になりかねない。業務効率化は検討しつつも、まずは人員を確保できる手段を模索しようとするのは当然だろう。
この点、外国人労働者を採用すれば、たとえ言葉の壁はあっても頭数は揃えられる。加えてインバウンド客へのサービス体制を整えていくうえでも、英語のできる外国人スタッフは貴重な戦力になるはずだ。
全国で100店舗以上を展開する、外食チェーンに勤めるM氏がこう同調する。
「当社ではもう日本人からの応募には期待していません。2022年から完全に外国人雇用に舵を切りました。今のところ何の問題もありません。みんな一生懸命働いてくれますから。最近、日本語が通じないインバウンド客が増え始めているのですが、外国人スタッフが接客応対の救世主になっています」
この外食チェーンのように、外国人雇用に傾斜する企業が最近増えている。はなから外国人だけをターゲットに、採用活動をしている企業も決して珍しくはない。
だが、いまや外国人の雇用は、以前ほど応募者が押し寄せる状況ではなくなっている。とりわけ宿泊・飲食サービス業は、これから採用が難しくなる可能性が高い。その理由は大きく2つある。
(1)日本で働く魅力が下がっている
(2)外国人留学生が減っている
(1)日本で働く魅力が下がっている

続く
https://news.infoseek.co.jp/article/toyokeizai_20230419_667114/