「社長を辞めて」と父に迫った町工場3代目 「ニッチな技術」の取引を6倍にした発信力
父に切り出した事業承継
尾針さんは14年ごろから、会社を継ぐ心づもりをしていました。ある難しい技術を持つ職人が高齢化で1人になり、定年も近づいていました。「親父に『技術承継をしないとまずい、誰か雇おう』と話しましたが、『お前に言われなくても考えている』と言われて(笑)」
小さな衝突が続いたまま事態は変わらずに3年。尾針さんは決意を固め、父親に切り出しました。
「僕に経営を任せてもらえるなら、社長を辞めてほしい。僕が辞めるか、あなたが辞めるかです」
技術の存続は会社の将来に関わります。「会社を守りたいなら覚悟を見せなきゃ。絶対に逃げない」と腹をくくっていました。
13年に起きた日本製大型コンテナ船の沈没事故の影響で、大型船用の金属素材の研究開発が活発化。造船所などから大型試験片の製造依頼が舞い込み、最高益を出していました。
「会計士さんが間に入り『今は幕引きに最高のタイミング。3代目に明け渡しては』と親父を説得してくれました」
父への周囲の説得もあり、17年、尾針さんは代表取締役に就任しました。その後、30代の若手社員が入社。社員総出で技術継承に取り組み、現在は頼れる技術者として定着しました。
尾針さんは「気持ちのいい事業承継ではないし、成功事例とはいえないかもしれない。でもあきらめず、良いと思ったことをやっていれば、味方する人は増えていくと思いました」と振り返ります。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ea1c55401a96bc445fd8bbb4e562a97d9759fce1?page=4