芝健介さんが見る露の強制移送 裁く側にも注がれる目 重なるナチス、ウクライナ問題機に歴史に学ばねば
注目の連載 鈴木美穂 有料記事
2023/4/24 東京夕刊
ウクライナの子どもの強制移送に関与したとして、国際刑事裁判所(ICC、本部オランダ・ハーグ)がプーチン露大統領に逮捕状を出した。ドイツ現代史(ナチス研究)が専門の芝健介・東京女子大名誉教授(75)は「この強制移送政策と、ナチス・ドイツのそれが重なる」という。その奇妙なシンクロとは――。
男の子が母親に駆け寄り、夢中で抱きついた。今月上旬、ウクライナの首都キーウ(キエフ)。ロシアに誘拐されていた約30人の子どもらが家族との再会を果たしたニュースの一場面である。
だが、故郷に戻った子どもはほんの一部だ。昨年の侵攻開始からこれまでに、少なくとも1万6000人の子どもが連れ去られたと見られる。芝さんは「子どもたちの帰還は長期的な課題となり、ロシア、ウクライナ両国の戦後に深刻な影を落とす問題となるのではないでしょうか」と危惧している。
占領地から強制移送した子どもたちにロシア語学習やロシア賛美の「教育」を強要し、ロシア化を進める手口に「既視感がある」と芝さん。第二次大戦時、ナチスが「人種的に価値がある」とみなした支配地域の子をドイツ人の養子に迎え、ドイツ化を進めようとした「先例」があるからだ。
実行役を担ったのはナチス親衛隊(SS)人種・植民本部に置かれた「レーベンスボルン(生命の泉)協会」だ。当初は出征したSSの子を産ませるための組織だったが、国内的に立ちゆかなくなると地域の子どもをさらい始めた。「ナチスが女性と子どもの保護を表の理由に掲げたように、プーチン氏も子どもの保護を打ち出している。ICCは今回、ロシアのマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)にも逮捕状を出しましたが、そうした組織のトップに女性を据える手法もそっくりです」
https://mainichi.jp/articles/20230424/dde/012/030/012000c