ソウル市内の、地下にあるレストランの個室に複数の韓国人が集まり、密かに昼食を取っている。政治家や科学者、軍関係者など、中には身元を明かせない人物もいる。これは、発足したばかりの「核戦略フォーラム」の会合だ。ランチタイムの議題は、韓国が核兵器を開発する方法を策定するという、野心的なものだ。
この極端なアイデアは、ここ数カ月の間で爆発的に主流になりつつある。韓国の尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領でさえ、国防会議で自国での核兵器開発の可能性に言及した。近年の大統領でこの選択肢を議論のテーブルに上げたのは、尹氏ただ一人だ。現在では新聞のコラムで毎日のように、このアイデアが大きく取り上げられ、国民の4分の3が支持している。韓国国民が核武装した北の隣人に対する不安を募らせる中、尹氏は26日、ジョー・バイデン米大統領の助けを得ようと、ワシントンで同大統領と会談した。
韓国は1970年代に、秘密裏に核兵器開発計画を進めたことがある。しかし、それに気づいたアメリカは、韓国政府に「核開発を続けるか、それともアメリカの既存の核兵器の全てを用いて韓国を防衛するか」のどちらかを選ぶよう、最後通告を出した。韓国政府はアメリカの支援を受けることを選び、今日まで数万人の米兵が朝鮮半島に駐留している。
その後、地政学的な状況は劇的に変化している。北朝鮮は、アメリカ全土の都市を狙える、これまで以上に洗練された核兵器を製造している。そんな状況下でもアメリカは韓国を守ってくれるのか、国民は疑問に思っている。
彼らが思いめぐらせているシナリオはこうだ。好戦的な北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が韓国を攻撃し、アメリカが介入せざるを得ない状況をつくる。そして金氏が、アメリカが撤退しなければ、米本土で核爆弾を爆発させると脅す――。もしそうなった場合、米政府はどうするのか。サンフランシスコががれきと化すリスクを冒してまで、ソウルを救うのだろうか。おそらくそんなことはしないというのが、ランチタイムの秘密会議に出席した人たちの結論だ。
「自分たちのことを他国が守るべきだと考えるなんてばかげている。これは私たちの問題であり、私たちが責任を負うものだ」と、核戦略フォーラムのメンバーで、韓国・与党「国民の力」所属のチェ・ジヨン氏は述べた。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-65395761