3月に88歳で亡くなった大江健三郎さんは、日本文学に何を残したのか。作家の池澤夏樹さん(77)と、神戸市外大准教授の山本昭宏さん(39)による対談記事の後編では、大江文学における「共同体」というテーマや、その小説の作り方についての考察を紹介する

「共同体」のあり方を考えた

 池澤 大江さんの作品では「共同体」というテーマも重要です。作家は、自分や、作った人物を中心にものを考える。しかし大江さんは個人や、個人の集合ではなく、共同体そのものがどうなるかを考えた。どう作るか、どう維持するか、どう壊れてしまうか。人を幸福にする共同体は構築し得るのか。そういう形で小説を書いた。

 山本 そうです。初期から一貫して大江さんの小説の基盤にある思想です。

 池澤 「飼育」に登場する子供たちもそうですね。一人一人の運命を追うのは自分の仕事ではないと思っていたのかもしれない。それは、既に多数の作家が書いているから。何かによって結ばれた人たちがいかにすればうまくやっていけるか、あるいは外の力にどう対抗するか。そういう問いかけで話を作っていった。

 山本 家族を描いてもそうですね。

 池澤 僕は「同時代ゲーム」が一番好きなんですよ。難解だというので評判が良くありませんが。あれは山の中にコミュニティーを作る話です。

https://mainichi.jp/articles/20230502/k00/00m/200/344000c