https://news.yahoo.co.jp/articles/1640cd15cdf1c66b095063293fe70441a8cb0d48
加害者に名前と住所を知られず訴訟できる? 民事訴訟手続きのルール改正
性犯罪やドメスティックバイオレンス(DV)などの被害者が、自分の住所や氏名をだれにも知られず匿名で裁判を起こすことができるようになりました。加害者からの報復を恐れ、裁判をためらう原因だと長年指摘されてきました。泣き寝入りをしていた被害者の救済にもつながると期待されます。制度改正の背景や狙い、ポイントなどを札幌弁護士会の渡邉太郎弁護士に聞きました。(聞き手・升田一憲)
■時代の流れ 被害者の権利を一層保護
――「住所、氏名等の秘匿制度」と呼ばれているようですね。そもそもどんな制度なのですか。
文字通り、裁判所に提出する資料、判決書などで住所、氏名を隠せるようにした制度です。時代の背景もあり、犯罪被害者らの権利利益を一層保護する必要に迫られたためです。
法律では、訴訟を起こしたり、調停の申し立てをしたりするとき、当事者の住所や氏名を記載しなければなりません。民事訴訟法を改正し、一定の要件を満たせば、秘密にしておくことができるようにしたのです。今年の2月20日に施行されました。
――なぜこのような制度が生まれたのですか。
住所、氏名の表示が常に必要だと、不利益が大きいためです。例えば、犯罪の被害者が加害者に損害賠償を請求するとき、配偶者からDVを受けた方が逃げた先で離婚調停を申し立てるときなどが当てはまります。訴えた人がどこの誰なのか、逃げた先の住所がどこなのかが容易に分かってしまいます。犯罪の被害者ならお礼参り、DVの被害者なら連れ戻しの危険があります。そのようなリスクを負うことを嫌い、被害の回復や離婚を希望する人が裁判手続きの利用に躊躇したり、泣き寝入りする人がいたためです。当事者が訴訟を申し立てると、訴状には住所を「代替住所A」、氏名を「代替氏名A」と記載することが可能となります。
■モラハラやDV裁判 転居先を知られるリスク減
――これまで依頼を受けた案件で、今回の制度創設で被害者の救済につながるような事例はありますか。
私の顧客に、夫からモラルハラスメントや暴力に長年苦しんだ女性がいます。その女性は、市役所の担当部署に相談に出掛け、用意された隔離施設に入ることができ、その後ひとり暮らしを始めることができました。今後、配偶者と離婚に向けた協議を始める予定です。今回の改正で、住所を知られるリスクが減ると思われます。
実務面でも助かったことがあります。従来は離婚調停を申し立てる際、申立書に必要な住所、氏名を知られないよう、引っ越し後も転出届を出さず、前の住所を書くなどのひと手間が必要でした。裁判所に依頼者の居場所を説明する際も、漏れないような配慮が必要でした。今回の改正で、被害者を保護する制度が進んだと思います。