殺人事件において被害者と加害者とが「身内」である率は極めて高い。法務省の発表によれば、4割超が親族によるものだという。

 それはつまり、被害者の身内の多くが同時に加害者の身内という立場になることを意味している。このような複雑な状況に置かれた時、その人たちの心はどう動くのか。

 俳優の前田勝さんもそうした辛い経験をした一人である。18歳の時、愛人と暮らし始めた義父を母親が撲殺し、飛び降り自殺した。

中略

 それから、すぐに義父側の親族から話がしたいと連絡があり、自宅で会うことになった。遅れるわけにはいかず、早めに家に着いて待つ。その間は、やはり空気が重く感じた。
この家では義父しか亡くなっていないはずなのに、母と二人が死んだ家のように思える。電気を付けるには中途半端な時間帯だったため、薄暗いリビングで、到着を待った。

 僕よりすこし遅れて、義父側の親族4人と幼い子供1人が来た。これからきっとなにかを言われる。今でもなぜそんなことをしたのか説明できないけど、当時の僕は
どうにかこの状況から逃れられないかと思い、幼い子供を笑わそうと変顔などをしていた。

 しかしそんなことで現実が変わる訳はなく、親族の女性から、「あの人も浮気というやってはいけないことをしたけど、それでも殺してしまうのは、絶対にあってはならないこと。
あなたに言ってもしょうがないけど、あの女も自殺して亡くなった今、私たちは生きているあなたを恨むしかないの。私たちはこれからあなたを恨み続ける。あなたはこれから一生、
人殺しの息子として生きていきなさい」と言われた。

 話をするのはその女性一人だけで、他の親族はじっと黙って僕のことを見ていた。その目から同じように思っていることが伝わってくる。薄暗いリビングというシチュエーションが、
親族たちの思いをさらに際立たせている。僕はいつの間にか姿勢を正して正座をしていた。

 やっぱりそうだよな。火葬場での食事が和やかだったからって、母がやったことを許してもらえるわけがない。なのに僕は、突然その人たちの目の前で、
幼い子供を笑わせようとしていた。それを義父の親族たちはどんな思いで見ていたのだろうか。

 そして最後に、「あなたも私たちに何か言いたいことある?」と言われた。まだ18歳だった僕は、母がしたことの重大さを、どう謝ればいいのかわからなかった。
それでも、息子の僕が、母の代わりに謝らなければならない。僕は自分なりに精一杯の謝罪をさせてもらった。

 僕の謝罪が終わるなり、親族たちは帰っていった。事件が起きてから、初めて義父側の親族たちの思いを知り、母がしたことは、絶対に許されないことだったと
改めて思わされた。そして、僕はこれから一生、人殺しの息子として生きていかなければならないのかと思うと、どうしようもない気持ちになった。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/05170607/?all=1

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