「敵の敵は味方」はウソである…人生を破壊するのは「明らかな敵」より「友達のふりをした敵」である理由

ユダヤ人のダニー少年は、ナチスの親衛隊員と遭遇した
時は1940年。フランスを占領したナチスは、午後6時以降の外出禁止令を出していた。ところがその日、7歳のダニーは、友だちの家で遅くまで遊んでいた。怯えながら家へと急ぐ途中、ダニーはセーターを裏返しにした。ユダヤ人であることを示す黄色いダビデの星を隠したかったからだ。

もうすぐ家に着く……というところで、ダニーはナチス親衛隊(SS)の黒い軍服を着た男に出会ってしまう。SSの隊員が手招きをした。言われるままにそちらへ向かいながら、ダニーは祈った。どうか裏返しのセーターに気づきませんように。

男との距離を縮めていったそのとき、親衛隊員が素早く動き、ダニーを捕えた! ……と思いきや、ダニーは抱きしめられていた。

そしてナチスの隊員は、ドイツ語で感情を込めて話し始めた。財布から少年の写真を取りだし、ダニーに見せる。何が言いたいかは明白だった。悪の権化には、ダニーと同年齢の息子がいた。そのわが子が恋しくてたまらないのだった。

親衛隊員は、ダニーにお金をいくらか渡し、微笑みかけた。それから2人は別々の方向へと歩きだした。世にも冷酷非道なことができ、現代のどんな悪より忌まわしい悪を象徴する人間のどこかに、まだ愛がしまわれていたのだ。

この一瞬の恐ろしい出来事から得た「人間は本質的に複雑だ」という教訓は、ダニーのその後の人生を形づくることになる。心理学博士号を取得し、人間の不合理に見える行動に焦点を当てた研究を行い、プリンストン大学の教授になった。そして後年、ダニエル・カーネマンはノーベル賞受賞時の声明文で、ナチスと遭遇した晩のことに触れている。

当時はダニーも親衛隊員も理解していなかったが、近年、科学によってようやく解明された事実がある。「悪い」人間からも善を引きだす方法があるということだ。

データによると、新しい友人を10人得るごとに、平均で1人、新しい敵ができるという。ちなみに、昔から「敵の敵は味方」と言われるが、これは真実ではない。

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