あれは平日の昼頃のことだった。翌日発売の写真週刊誌の早刷りを手にした男性がやって来て、午後のワイドショーのチーフ・プロデューサーに声をかけた。
「これ、今日の番組でやらないよね」
そう言って、写真週刊誌を広げて見せる。そこにはジャニーズ事務所に所属するアイドルグループのメンバーが、海外旅行をしている姿が写っていた。同伴者の女性には目線が入っている。
いつもは号令けたたましいチーフ・プロデューサーの態度がいきなり仰々しくなったので、それが“偉い人”であることは側から見ていてもすぐにわかった。それも「制作」と呼ばれるドラマやバラエティー番組の制作部門の人間であったことは、あとになって知った。
「あ、いや、どうかな…」
しどろもどろにチーフ・プロデューサーは、その日の曜日担当のチーフ・ディレクターを呼んだ。ワイドショーのように毎日放送される帯番組では、曜日ごとに担当スタッフが班分けされていて、チーフ・ディレクターがその日の放送を差配する。放送内容はプロデューサーが知らないはずはないが、あえて担当を呼んで説明させる。
「これは、芸能デスクから上がってきていないので、いまのところ予定はありませんが…」
写真週刊誌を見た曜日担当が言った。すると今度は、芸能担当のデスクが呼ばれる。
「これはまだ見たばかりで取材もできていないし、番組でやるという指示もありませんので…予定はないです」
やたらに仕切りたがる芸能デスクだったが、そう殊勝に答えると、チーフ・プロデューサーが言葉を次いだ。
「…と、いうことだそうです」
そこで写真週刊誌を持ち込んだ男性が言った。
「じゃ、やらないということでいいね」
誰が番組の責任者なのかはっきりしないような回り持ちの確認作業で、いつの間にかジャニーズ事務所のスキャンダルは「やらない」ということになっていく。
「次は、朝の番組だな」
“偉い人”はわざわざそう呟いて、次の部署に移動していく。
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