https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230519/pol/00m/010/005000c

社会保険料で子育て支援 「かぞく保険」という解決策

岸田文雄首相が表明した異次元の少子化対策の財源を巡り、八代尚宏・昭和女子大特命教授の「子育て支援連帯基金ではなく『子ども保険』を」を拝読した。趣旨に賛同する。

 後押しの意味を込めて、現場の記者時代から提言してきた「かぞく(家族)保険」構想を再び訴えたい。

迷走する財源問題
 財源問題は迷走を続けている。首相は増税を嫌い、社会保険料への上乗せをにおわせている。しかし、加藤勝信厚生労働相は社会保険料を少子化対策に充てる案について「(保険料を)使う余地はない」と否定的だ。

 一方、経団連の十倉雅和会長は消費増税の必要性を再三強調している。

 首相は6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で財源の大枠を示すというのに、着地点は見えてこない。

 そうしたなか、八代教授が主張したのが「子ども(家族)保険」だ。同様の政策は目新しいものではない。

 厚労省内では20年近く前に「育児保険」構想が浮上したし、2017年には小泉進次郎元環境相ら自民党の若手議員が「こども保険」を提案している。

 いずれも「子どもが必要な保育・教育を受けられないリスクを社会全体で支える」という理念だ。

 しかし案が浮上するたび、与党などから「子どものいない人や子育てを終えた人には保険料負担への見返りがなく、保険制度になじまない」「子育てはリスクではない」といった批判が出た。

 今回は医療、年金、介護の社会保険料に上乗せして徴収する案が議論の中心だが、これにも以前と似た反論が出ている。

 けれども、果たして子育て支援策を社会保険で手当てすることはそれほどおかしいことだろうか。

「見返り」はある
 反対論者は「保険なのに見返りがない」と言う。が、子育てを終え、老後を迎えた人も現役や次世代に支えられていく。

 子どもがいない人も、いずれは次世代に年金や医療の多くを負担してもらうことになる。経済界にすれば、将来の労働力確保につながる。濃淡はあれ、「見返りがない」とは言い過ぎだろう。

 次世代への支援が年金、医療、介護の充実に結びつき、巡り巡って全世代の受益になるとの考えはうなずける。