忸怩たる思いで妻には完敗を伝えたが……

お母さんの育児日記にはことばの発達の様子が実に詳細に記されていました。幼児期にことばの遅れを指摘されましたが、テレビやDVDの模倣が出るようになりました。そのうちDVDのセリフを現実場面でアレンジして使うようになり、次第にどのDVDからの流用かはわからなくなり、コミュニケーションにはぎこちなさを抱えながらも家族との会話も成り立つようになりました。

ただし、お母さんの印象は「(DVDなどの)記憶のストックの中から一瞬にして引き出している」という感じだそうです。この方の事例は、これまでの解釈と一致しそうでした。私は『自閉症は津軽弁を話さない 自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く』(福村出版)にまとめました。そして、このたび角川ソフィア文庫で出版することになりました。

私の研究は一段落です。忸怩たる思いで妻には完敗を伝えました。もうこれで謎は解けたと思ったのです。

ところが出版を機に今度は、それまで共通語しか使わなかったのに方言を話すようになる自閉症の人がいるという新たな謎が寄せられました。一体何が起きているのか。もちろん謎は解かねばなりません。