「英語と中国語の覇権争い」10年後の勝者はどちら
中国語が「世界共通語」になる日はやってくるか

これまで〝世界共通語〟として君臨してきた英語。しかしながら、ここに来て中国語がそれに追随してきている。果たして、中国語が〝世界共通語〟として英語を凌ぐ日はやってくるのだろうか。著書『英語と中国語 10年後の勝者は』(小学館新書)を上梓した五味洋治(東京新聞論説委員)さんに、ニューヨーク・タイムズ東京支局の上乃久子記者がインタビューした。

アフリカ大陸や中近東で増え続ける親中国家

上乃:アフリカ大陸というと、フランス語を話す人たちが多いという印象がありましたけど、今となってはそうも言い切れないようですね。中国語を学ぶ人が増えたのは、中国による経済協力の影響が明らかに大きくなったためでしょうか。

五味:そうですね。アフリカ各国は今、中国からの有償の経済支援がたくさん入ってきて、インフラを支援したり、道路作ったり、ダムを作ったりしているわけですね。ただし、償還期日が来た時点で借金を返せないと、建設したインフラが中国のものになってしまうという立て付けになっているケースがたくさんあります。

中国による「債務の罠」といって、よくニュースになっていますよね。こうしたスキームによって自国の国外資産を増やしていると。

ただ、アフリカの人たちには中国を選ぶしかなかったという事情もあります。フランスをはじめとした旧宗主国のヨーロッパの国々に頼ろうとしても、何もしてくれないという疎外感を抱えていたんです。これは中近東を見ても同じ。そういう状況を見透かして、中国はどんどん食い込んでいっている。

そうすると、それらの国はどうしても〝親中国〟にならざるを得ない。国連の場では、いかなる国も投票権を持っていますから、親中国の国が増えれば増えるほど、国際社会での中国の発言力は強まるという流れになっていきますね。

五味:アフリカに行ってみると、中国の存在感は絶大だと言います。ただし、アフリカ大陸には、欧米メディアの特派員はあまりおらず、中国によって実際に何が行われているのかが報じられる機会は多くありません。日本のメディアの特派員も、カイロやヨハネスブルクといった大都市にしかいないのです。

そうなると、中国がアフリカ大陸で何をしようが、西側諸国はあまり気付かないという状況が生まれます。そしてあるとき気付いたら、中国が経済援助とともにアフリカ大陸で中国語を普及させ、同時に〝中国抜き〟では生活が成り立たなくなっている様子を目の当たりにする……。これが現在の状況と言っていいでしょうね。

上乃:今まであまり振り向かれなかった地域の人たちが、自らが学んだ中国語を活かし、経済的に成長してもう一段高いレベルの生活を目指そうとしているといった感じでしょうか。そう考える人たちは、これからも増えていきそうですね。

五味:そうだと思います。かつて、アフリカのエリートたちは皆フランス語を流暢に話していました。でも今は、「フランス語が話せても何のメリットもない」って言っているそうです。そこは利にさといというか、しっかりと考えている。こうした目端の利かせ方は、これからの日本人にも必要かもしれません。中国語が日本に入ってきたら、中国文化に取り込まれてしまうのではないかと心配するのではなく、中国のスケールメリットを活かして利用していくくらいの気概があってもいいでしょう。

続く
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