「お父さんもお母さんも罪を背負うから。自首しよう」。母親は説得した。青木容疑者は「捕まれば10年、20年と裁判になって絞首刑になる。絞首刑は一気に死ねない。そんな死に方は嫌だ」と応じなかった。母親は、出頭できないなら一緒に死のう―と提案。「母さんは撃てない」と拒まれた。説得と問答の最中、青木容疑者は緊張で喉が渇いたのか、玄関脇の水道で2、3回水を飲んだ。

 「どうする」

 「…」

 「お母さんがそばで見ているから。最後の場所は自分で決めて」

 「だったらおれリンゴの木がいい」

 青木容疑者は隣のリンゴの木の下に移動。猟銃の銃口を喉仏のあたりに突き立て、向きや角度を変えたり、立ったり座ったり。母親には猟銃が長さ1メートルほどあるように見えた。銃口の先端から遠くて引き金が引けない。「母さん引いてくれ」。青木容疑者はそう言うが、応じられない。母親は「足はどうか」と提案し、容疑者の靴下を脱がせた。足の親指で引き金を引こうとしたが、うまく引けない。

 午後8時ごろ。リンゴの木の下で青木容疑者が自殺を図ろうと猟銃をいじっている最中、突然、発砲音がとどろいた。銃口は空を向いていた。「安全ロックしていなくて発砲したんだ」と青木容疑者。動揺していた。もう一度、同様に上空に発砲した。

 30~40分ほど自殺を試みたができない。「意気地がないんだな。生きたいんだな」。そう思った母親は「だったらお母さんが撃とうか」。青木容疑者が猟銃を母親に渡した。「どこ撃つ」「心臓の裏を撃ってくれ」。容疑者はうつ伏せになり横たわった。

 説得の最中、母親が猟銃を取り上げようと2、3回試みたところ手放さなかった青木容疑者が、初めて猟銃を手渡してきた。「警察に渡してすぐ突入してもらえれば」。事態を早く収束させたい母親は現場から駆け出した。後ろで容疑者が「あー」と言ったが、追いかけてはこなかった。

 しかし、自宅から60メートルほど東の交差点に停車していたパトカーは前照灯や室内灯がついていたが、周囲は無人。重い猟銃を抱えられず「走るので精いっぱい」と、近くの民家と土蔵の隙間に隠した。

 道を南下するとパトカーはあるが人がいない…。国道403号に出たところで、やっと警察官に会えた。事情を伝えると中野署に移るよう求められた。収束にはほど遠い、想像と異なる展開。「戻って説得したい」と思ったが、できなかった。

 ■父に息子から電話「おれ、どうしたら…」

 26日午前0時10分ごろ、姉(青木容疑者の伯母)が自宅を出た。後に、青木容疑者が出るよう促した―と母親は姉に聞いた。青木容疑者は暗い足元を照らす懐中電灯を姉に持たせたという。

 午前4時半ごろには、正道さんの携帯電話が鳴ったという。青木容疑者からだった。「おれ、どうしたら…」。正道さんは言った。「おまえ、こういうこと起こして。自首するしかないよ」。青木容疑者は眠れず、1階リビングで休んでいるとも話した。「銃はどうしてる?」「銃はそばに置いていない」。そしてこう言った。

 「最後、温かいお湯を一杯飲んで出る」

 午前4時37分、警察は青木容疑者の身柄を確保した。