中野市4人殺害事件 両親が語る容疑者の半生 高校で消えた笑顔、「盗聴されている」…
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■幼い頃はひょうきんな性格 高校で消えた笑顔
青木容疑者は3人きょうだいの長男として生まれた。
幼い頃はひょうきんな性格で、中野市内の幼稚園では友達と元気に遊んでいた。
「ちょんこずく(調子に乗ってはしゃぐ、との意味の方言)ところがあった」と父正道さん(57)。
母親(57)は幼稚園の園長から「多動児の傾向があるかもしれない」と言われたが、
正道さんは「子どもはそんなものだろう」と気にもとめなかった。

(中略)

高校時代は勉強は振るわず、受験を控えた進路面談で教師に「推薦入学は難しい」と告げられた。
それでも大学進学を願った正道さんは
「親に学歴がなかったから、学歴をつけてあげたかった。勝手な親心だった」。

長野市内の予備校で1浪し、東海大(東京)の情報通信系の学部に進んだ。
当初は個室に食事付きの神奈川県内の寮で生活したが、他大学の学生もいる環境になじめず、
東京・目黒のアパートで1人暮らしを始めた。

■東京でアパート暮らし「盗聴されている」
そして、異変が起きた。

家族が青木容疑者の携帯電話にかけても出ない。折り返しの連絡もない。
心配した両親は車で急ぎ上京した。

(中略)

姿を現した青木容疑者には生気が感じられなかった。「顔面蒼白(そうはく)で目もうつろだった」。
そう振り返る母親は、今回の事件の動機と同じ言葉を耳にする。

「大学でみんなに『ぼっち』とばかにされている」

「ぼっち?」

正道さんが聞き慣れない言葉の意味を尋ねると、青木容疑者は「独りぼっちだ」と返した。

異変はそれだけではなかった。

住んでいたアパート1階の部屋に入る際、青木容疑者は
「ここは盗聴されているから気を付けて」と言った。
聞くと、盗聴を恐れて携帯電話の電源も切っており「部屋の隅に監視カメラがある」。
だが、両親からはカメラがあるようには見えなかった。

「これは幻覚だよ」

「何で俺の言うことを信じてくれないんだ」

両親は青木容疑者を実家に連れて帰った。

その後、専門業者に頼んでアパートに盗聴器が仕掛けられていないか調べたが、
盗聴器は発見されなかった。「こういうことあるんですよ」。
業者の若い男性は、都会の1人暮らしで精神が不安定になったのではないか―と推し量った。
ショックを受けた両親は青木容疑者と相談し、大学を中退することが決まった。

両親は病院の受診を勧めたが、青木容疑者は「俺は正常だ」と拒否した。
無理して受診させれば「親子の信頼が切れないか、心配だった」と母親は打ち明ける。
結局、受診することはなかった。

■「誰も俺のこと信じてくれない…」
正道さんによると、青木容疑者は鼻や耳が過敏で極度にきれい好きだった。
実家で家族に囲まれて暮らす青木容疑者は、テレビ画面を使って楽しむサバイバルゲームにのめり込んだ。
1日に4~5時間プレーを続け、母親はバーチャルの世界に没頭する姿に不安を募らせた。

その頃、青木容疑者は「猟銃の免許を取りたい」と言い始めた。
正道さんは危険な銃の扱いに不安を覚えたが、狩猟仲間の輪の中で人付き合いができれば―と考えた。
青木容疑者は精神面も問題ないと見なされ、猟銃の所持を許可された。

(中略)

昨年夏。ジェラート店で青木容疑者から再び、あの言葉が出た。

「ぼっちと俺のことをばかにしていた」

故郷の信州を離れ都内で暮らす手伝いの人たちが「私たちぼっちだね」と
話していたのを誤解したようだった。

そして、5月25日―。

4人を殺害した青木容疑者は猟銃を抱えて自宅の庭に座っていた。出頭するよう説得する母親に言った。

「誰も俺のことなんか信じてくれない。『ぼっち』『ぼっち』と言って。
自分はずっと我慢していたんだ。大学生活のあの時に、俺は人生を終わりにしたかったんだ」