コロナ禍以降、経験も体力も足りない人たちの事故が増えた
従来と違っていると感じるのは、コロナ禍になってからは、経験の乏しい登山者や体力不足による事故が増えているように感じることだ。コロナ禍の影響による自粛下で、三密を避けるレジャーとして、今まで山に登ったことのない人たちが登山をはじめたことが、その背景にある。また、長らく自粛を強いられて運動不足に陥っていた人たちが、自粛解除となって登山を再開したことも一員だろう。
とくに2022年は、ちょっと呆れてしまうような遭難事故が多く目についた。
たとえば4月22日、香川県さぬき市にある標高788メートルの矢筈山に登った50代の男性が「山に登って下りられない」と警察に救助を求めてきた。登山が趣味だというこの男性、翌日にはケガもなく救助されたが、なぜ下りられなくなったのか、自力でどうにかできなかったのか、不思議で仕方ない。
タクシーを呼べる場所で救助要請を出したソロキャンパー
福岡県宮若市の犬鳴山(標高584メートル)では5月28日、友人3人と入山した73歳男性が行方不明となり、2日後にボランティアの捜索者に発見されるという事故が起きた。男性は犬鳴山に登頂後、仲間と別れて近くの西山に向かったが、こもの峠付近で仲間のひとりと合流したのち、「疲れたからここで救助を待つ」といって、山中に留まり続けていたのだった。
9月4日には、伊豆・達磨山(標高982メートル)の風早峠付近でソロキャンプをしていた50代の男性が、「水分がなくなったので助けてほしい」と消防に連絡し、助けられるという騒動もあった。男性は、準備してきた飲料水を使い切ってしまい、不安になって救助を要請したとのことだが、現場はすぐそばを西伊豆スカイラインが通っているところで、救助を要請するのではなく、タクシーを呼べば済むことだった。
「疲れて歩けない」「ライトがつかない」呆れた富士登山客
そしてとりわけひどかったのが富士山だ。2022年夏の富士山では、ほぼ毎日のように事故が起きた。そのいくつかを次に記す。
・7月18日 男性と2人で富士山の御殿場ルートを下山していた26歳の女性が、できた靴擦れを庇いながら歩いていたところ、ほかの箇所も痛めてしまい、歩けなくなって救助を要請した。警察と消防に無事救助される。
・7月26日 午後10時前、中国籍の28歳の男性単独行者が、「富士山を登山中に道に迷った。辺りが真っ暗でどこにいるかわからない」と救助を要請。携帯電話のGPS位置情報により、男性は御殿場ルートの登山道上にいることが判明し、出動した救助隊といっしょに下山した。ライトは携行していたが、点灯しなくなってしまったという。
・7月29日 単独の70歳男性が、御殿場ルートを下山中に「疲労で動けない」と110番通報し、出動した救助隊員に付き添われていっしょに下山した。男性はその後、自力で帰宅した。
・8月8日 子供2人と須走ルートから山頂を目指した40歳男性が、九合目付近で登頂を断念して下山する途中、両膝が痛くなって歩けなくなり119番に通報。連絡を受けた警察が、山小屋などに物資を上げる民間ブルドーザーの出動を依頼し、男性を救助した。
・8月28日 単独の66歳男性が富士宮ルートを元祖七合目まで登ったのち、体調が悪くなったため下山を開始。新七合目まで5時間かけて下山したものの、長時間雨風にさらされたため低体温症に陥り、救助を要請した。男性は救助隊員によって担架で運ばれたのち、病院に搬送された。
・8月29日 富士宮ルートを下山していた4人パーティのなかの61歳女性が、元祖七合目付近で岩の間に左足を挟み、足首を捻る。女性は防災ヘリで救助され、病院に運ばれた。
以上はほんの一例であり、「疲れて歩けなくなった」「転んでケガをした」「寒くて動けなくなった」といった救助要請が、次々と警察や消防に舞い込んだ。それぞれの事例の詳細がわからないので、もしかしたらやむをえない事情があったのかもしれないが、報道をみるかぎり、お粗末な印象を拭えない事例が多すぎる。富士山の遭難救助では、前出のブルドーザーの使用が見込めるという利点はあるものの、こんな状況では警察や消防はたまったものではないだろう。
https://president.jp/articles/-/69907?page=1