触ろうと手を伸ばすと、重要なことに気づく。

手の向こうがちゃんと「隠れる」のだ。いわゆる「オクルージョン」がちゃんと実現されている。

現実世界なら当たり前のことだが、CGの世界ではそうではない。手の位置を把握し、その向こうにある恐竜などとの位置関係を把握し、それらを矛盾なく扱えないと、このような表現は難しい。

デモが終わり、Vision Proをかけたまま、またソファまで戻る。

さらっと書いたが、これも大変なことだ。

自分がいる位置、前にある机、その上にある本やメガネなど、「実際にあるもの」が、違和感・矛盾なくその場に見えるから、自然に部屋の中を歩けるということなのだ。

当たり前のことに思えるが、「安全に家の中を歩き回れるビデオシースルーAR」はまだあまりない

あまりに自然なので忘れかけてしまうのだが、Vision Proに表示されているのは「Vision Proが生成されている画像」だ。周囲が透けて見えているわけではない。Vision Proが複数のカメラから取得した映像を合成し、あたかも肉眼で見ているかのような映像にしてくれているのだ。

視野角(FoV)はスペックとしては公開されていないものの、約90度。他のVR機器ほど広くはなくて、視野の狭さは感じる部分がある。だが、見えない部分をズバッと切り落としているわけではなく、ぼんやりと暗くしていくような処理が加えられているので、数字ほど体験は悪くない。

視野角の狭いARというと「現実世界に開いた穴の中だけ、現実とCGがミックスした世界」に見えることが多い。だがVision Proの場合には、ちゃんと「現実の中にCGがミックスされている」ように感じられる。

なにより重要なのは、ここまで挙げた内容が「デモとして作り込まれたものではない」ということ。

ARなどで、アプリとして色々体験を作って驚きを与えることは(難しさがあるが)十分可能だ。しかしVision Proは、これらすべての要素が「基本機能」として、すでに動く形で提供されている。

ここで挙げた要素の多くは、個々のVRアプリ・VR機器にはあったものも多い。だがVision Proの凄みは、それらをまとめて「より良い形で」「製品としていまにも使えるレベルで」実現してしまった、という点にある。

https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/rt/1506778.html