不潔で不合理な「暗黒時代」? 中世ヨーロッパの4つの誤解

それは革新、哲学、そして伝説的な芸術作品の時代だった。中世ヨーロッパ(およそ西暦500〜1500年)の真実を知れば、驚く人も多いのではないだろうか。

 ルネサンスとそれに続く啓蒙思想が登場する前の時期は、一般にヨーロッパの「暗黒時代」だと認識されている。後進的で、汚らしい身なりをしていて、原始的な技術しか持たず、ひどい迷信に囚われていた残酷な人々の時代、というわけだ。

 しかし、実際の「暗黒時代」は、そうした認識とは程遠い世界だった。この記事では、中世についてのよくある誤解を4つ紹介する。

誤解1:中世の人々は不潔だった
 人間の健康は「四体液」のバランスで成り立っているという説や、「瘴気(しょうき)」と呼ばれる悪い空気が健康を害するという考え方を覆すに至ったのは、病気の原因が細菌であるという説が登場する19世紀になってからのことだ。しかし、汚い服を身にまとい、体を洗わず、衛生観念が欠如していたという中世の人々に対する一般的なイメージは正しくない。

 実のところ、ヨーロッパの人々は、屋内でも屋外でも好んで沐浴をした。彼らは家庭で石鹸を作って使用していただけでなく、浴場にもよく足を運んだ。浴場には公共のものや私設のもののほか、売春宿の隠れ蓑となっているものもあった。

 さらに中世には、食事前の手洗いにまつわる複雑な儀式まで存在し、とりわけ貴族の間では盛んに行われた。手洗いの習慣は農民たちにもあったが、貴族は贅沢な洗面室を使い、吟遊詩人が歌うセレナーデを聞きながら手を洗った。王と食卓を共にする際には、彼らは王が皆の目の前で手を洗ってから席に着くまで待機した。それによって、王は地位の高さを示した。

 現代の歴史家たちは、手洗いの習慣が廃れていったのは、より啓蒙が進んだはずの16世紀のことだと考えている。ルネサンス時代の後半だった当時、食卓では、洗った指の代わりにフォークが使われるようになっていったからだ。(参考記事:「手洗いの大切さ、発見したが報われなかった不遇の天才医師」)

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