<無断駐車するのと同じ感覚で合法的に駐車場を使えるという、まさにスマートなシステムだったが、裁判所と運営企業が提携。中国ならではの「制度」が組み合わさって......>
ぼったくり駐車料金!
最近、中国でバズった言葉だ。繁華街や観光地の駐車場料金がビビるほど高くて泣きそうに、という話だったら日本でも普通にある話だが、「世界最先端の監視国家」中国は一味違う。
昔ながらの「権力の濫用」と最先端のテクノロジーが悪魔合体することで、ちょっと奇妙なB級ニュースに仕上がっている。
事件の舞台となったのは広西チワン族自治区南寧市。5月23日、市長は記者会見を開き、ぼったくり駐車場料金について謝罪し、政府関係者ら5人の職務停止処分を発表した。
問題となったのはスマート駐車場システムだ。路肩に白線を引いただけの駐車スポットがある。メーターなどは設置されておらず、AI監視カメラが駐車した車の番号と駐車時間を記録し、スマホアプリで請求書を送りつけるという仕組みだ。
いちいち支払いをしなくても良いのはとても便利そう。ちょっくら無断駐車するのと同じ感覚で合法的に駐車場を使えるというのは、まさにスマートだ。
ただ、看板などで料金が明示されていないため、思ったよりも料金が高くてびっくりというケースも多いのだとか。
あるネットユーザーは「一晩停車したら100元(約2000円)も請求された!」とブチ切れていた。いくら地方都市とはいえ、南寧市の人口は約890万人、立派な大都市だ。一晩2000円ならぼったくりとまでは言えないようにも思うが、数年前と比べると数倍の価格だと怒り心頭である。
こんな金は払えん!と踏み倒していた人も多かったようで、南寧市のスマート駐車場運営企業が発表した「悪質踏み倒しリスト」には、未納額50万円を超える猛者たちがずらりと並んでいる。ロック板がついてる駐車場とは異なり、料金を払わなくても車を動かせるのだから、一定数の踏み倒しが出るのは必然だ。
ゆるーく行動制限をかける「失信非執行人リスト」とは
この問題も監視テクノロジーで解決しようというのが中国流。南寧市青秀区裁判所は5月、駐車場運営企業との提携を発表した。踏み倒し者をAIカメラとビッグデータでさくさく特定し、速攻で裁判にかけるという取り組みである。
中国には「失信非執行人リスト制度」がある。通称「老頼(踏み倒し者)リスト」。
借金を支払わなかった、裁判で負けても賠償金を支払わなかったという人物を登録できるもので、このリストに掲載されると飛行機や新幹線に乗れない、ナイトクラブやゴルフ場など娯楽施設を利用できない、マンションを買えない、子どもを優良私立学校に通わせてならない......といった制限を受けるというもの。
すぐさま牢屋に叩き込まれるようなきつい処罰ではないが、ゆるーく行動制限をかけることによって、借金を支払うように促すという制度である。
青秀区裁判所と駐車場運営企業との提携とは、つまり駐車場料金を支払わないやつはAIとビッグデータ、カメラで特定し、速攻でこのリストに掲載してやるという宣言だ。これはやりすぎだ、そもそもぼったくりだろと、現地市民とネットユーザーが怒り、市長が謝罪する事態にまでいたった。
南寧市という地方都市の問題が、中国全土のホットトピックとなったのは、「税金以外の名目で政府からお金が要求されるのが今後ますます増えそう」という不信感も背景にある。
というのも、昨年まで続いたコロナ対策で中国の地方財政はすっからかんになっており、あの手この手で収入確保を狙っているためだ。実際、このスマート駐車場ソリューションを開発している企業のサイトには、渋滞解消や道路管理の効率化と並び「財政収入の倍増器」というメリットがあると強調されている(下の写真)。
AI監視カメラの駐車場ソリューションから、裁判所との連携へ。これは拙著『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)で描いた世界だ。
ただ、同書で紹介した山東省威海市栄成市は監視カメラによって路駐が一掃された街だったが、さらに「AI監視カメラがあるので合法的に路駐できるようになりました」と一周回っている点がなんとも面白い。
やりすぎ監視技術が生み出す中国B級ニュース、その進化はとどまるところを知らない。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/06/ai-74_2.php