96歳「生涯彫刻家」中村晋也さん 原点の軍隊経験から「祈り」へ
釈迦の生涯にまつわる八つの重要な場面を表現した「釈迦八相像」が今年4月、奈良・薬師寺に奉納された。
一つの場面が高さ約3メートル、幅約5メートル、奥行き約1・5メートル、重さ約3トンもある大作。それが八つある。
制作したのは日本を代表する彫刻家中村晋也さん。大正生まれの96歳だ。
81歳で文化勲章を受章したときの記者会見で唐突に制作を発表して弟子たちを驚かせ、心配させた。
構想に3年、制作に11年をかけて大願を成就させた。中村さん自身、「いのちとの闘い」と振り返るほど厳しい道のりだった。
毎日6時間の制作
JR鹿児島中央駅(鹿児島市)から西に約1キロの住宅街にある重厚な洋館。自宅内に設けたアトリエは1階と2階の境をなくして5・5メートルの高さが確保されている。4・5メートルもある作品もここで制作した。広さは約50平方メートル。
中村さんは、そのほぼ中央で椅子に座ってレリーフに向かう。小指の先ほどの大きさにちぎった粘土を、右手の指で作品にくっつけて形を作っていく。時折、全体の様子を見てツゲべらで表面をならす。
日々呼吸するのと同じような自然さで制作に臨み、70年で千点以上の作品を生み出してきた。今でも毎日午前と午後、計6時間ほどアトリエで制作に励む。
まさに「生涯彫刻家」だ。
現在、取り組んでいる作品は一昨年暮れに95歳で依頼を受けたもの。型どりや成形などの過程を考慮すると、像の完成期限は今年12月ごろで、中村さんは97歳を過ぎている。
制作の手伝いや身の回りの世話をするのは、鹿児島大学時代の教え子2人。中村晋也美術館の学芸員野間口泉さんと鹿児島市立美術館長の楠元香代子さんだ。
「年が年だから体調が悪化して、依頼された作品を完成できないこともあるのに」と心配する。
しかし中村さんは意に介さず、「制作依頼は断らない」という信念を貫く。その理由は「ご縁を無駄にしたくないから」。
鹿児島で70年
鹿児島との縁ができたのは1949年、東京高等師範学校を卒業して鹿児島師範学校教官兼鹿児島大学講師になってから。
三重県生まれで東京に進学した中村さんにとって縁もゆかりもない地だったが、2度のフランス留学をのぞいて鹿児島に在り続ける。
東京の大学から誘いはあったという。しかし教え子を途中で放り出すわけにはいかないと鹿児島にとどまった。「東京だといろんな雑音が入ってくる。鹿児島だとそれがなく制作に集中できる」と鹿児島の良さを語っていた。
徹底した調査で知られる。モデルが故人であれば必ず墓参りをする。資料を集めて読み込み、故人の足跡をたどる。石川啄木や太宰治、椋鳩十の像もそうしてつくられた。
墓参りが意外な事実を知るきっかけになる。
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