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労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態
しかも「要再検査を放置している人」が約半数も

健康診断を受けた人のなかで有所見者の占める割合“有所見率”が、今、6割に急接近している。

有所見者とは健診で医師が判定した「異常なし」「要経過観察」「要再検査」「要精密検査」「要治療」のうち、「異常なし」以外の人をいう。

上昇傾向が続く有所見率
有所見率は、厚生労働省がまとめた定期健康診断実施結果でわかる。定期健康診断実施結果は、50人以上が常勤している事業所が実施する定期健康診断、いわゆる“職場の健診”の有所見率などを集計したもの。労働安全衛生法第66条に基づき、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならない、労働者は事業者が実施する健診を受けなくてはならないとしている。

結果を見ると、2021年は58.7%。1997年までは3割台だったが、2008年に5割を超え、それ以降、上昇傾向を続けている
有所見率の上昇傾向は、加齢に伴い、高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の予備軍が増えていることが要因と考えられる。

社会医療法人若竹会が運営するつくばセントラル病院(茨城県牛久市)健診センター長の神谷英樹医師は、「就業人口の年齢分布は若年者が減少し、高齢者が増加しているので、定期健康診断での有所見率の上昇は高齢者が増加した影響を受けていると考えられる」と話す。そのうえで、「年齢や年代ごとの有所見率の推移を検討する必要があるが、生活習慣病が増加している可能性もある」とコメントする。
なお、定期健康診断結果報告は健診の実施者数と有所見者数を報告することになっているが、性別、年齢を記載するようになっていないため、年齢別の有所見率や年齢調整した有所見率を算出することはできない。

一方で、こんな意見もある。

厚労省のがん検診に関する検討会などで構成員を務めている医師で、公益財団法人福井県健康管理協会(福井市)の松田一夫副理事長・がん検診事業部長は、「有所見率の年次推移は意味があるのかもしれない。ただし、労働安全衛生法に基づく職場の健診の有所見率は、判定する医師のばらつきが大きいと思う」と指摘する。

3人に1人が血中脂質の異常
検査項目別の有所見率では、血中脂質が33.0%と最も高く、次いで血圧が17.8%、肝機能が16.6%だった 。

遺伝的な要素や体質だけでなく、食習慣、運動不足、肥満などが影響しているとみられる検査項目が有所見率の上位となり、それぞれ上昇している。こちらについて前出の神谷氏は、「血圧や脂質、血糖、肝機能、心電図で有所見率が徐々に増加しているので、生活習慣病やその予備軍が増加していることが読み取れる。これも、先ほど指摘したように、受診者の年齢の影響を受けるので、単純に、『生活習慣病が増加した』と結論づけることはできない」という。

貧血も徐々に増加しているが、その理由はよくわからないという。そのうえで、「定期健康診断で貧血を認める方の多くは閉経前女性なので、受診者の女性比率の上昇、つまり就業人口に占める女性の割合が増えている可能性がある」と考察する。

かつて地域産業保健センターからの委嘱で複数企業の産業医をしていた千葉大学予防医学センター(千葉市)の坂部貢特任教授は、職場の健診で血圧測定する受診者からよく聞く言葉として、「健診で測定すると血圧は高くなるが、自宅でリラックスして測るとこれほど高くならない」という言葉を挙げ、これには意外なリスクが潜んでいると指摘する。

医療環境下で血圧が高くなる、いわゆる「白衣高血圧」の人は、早朝高血圧や夜間高血圧が生じているケースもあり、常に血圧レベルの高い人と同じように、脳卒中などを発症するリスクを抱えているというのだ。

貧血については、現行はヘモグロビンの数値が中心になっていて、鉄分やフェリチンなどが足りなくなる、いわゆる“隠れ貧血”を見つけ出せていないケースがあることにも注意が必要だという。 

健診内容全体について、前出の松田氏は「健診項目で最も意味があると世界的に認められているのは、肥満度と血圧、および血糖値のみ」と指摘。また、「職場の健診では、空腹時ではなく午後(食後)にも行われていると思うので、とりわけ、血中脂質や血糖値の判定には疑問が残る」とし、こうアドバイスする。

「(健診は)空腹時に限り、この3つの項目に絞って、医師の判定ではなく、BMI(Body Mass Index:体格指数)、2回実施する血圧測定の平均値、内服薬の有無、空腹時血糖値、あるいは過去1〜2カ月間の血糖値を示すHbA1c値のみで比較することで、意味があるかもしれない。医師の判断だけでなく、数値で判断したほうがいいだろう」