立浪和義の通算2480安打を支えていた化学技術がある。

 「打者というのはバットの重さに敏感なんです。(自分だけではなく)イチロー選手をはじめ、球界を代表する選手が使っていました」

 バットは生きている。湿気を吸い、吐く。梅雨時はベストの重さから増え、冬場は減る。だから立浪は保管方法にこだわった。内側に防湿シートを貼った特注のジュラルミンケースに、富士シリシア化学の調湿剤を敷き詰めていた。この日、同じ仕様のバットケース(3)と調湿剤が、同社の有村正之副社長から贈呈された。

 昨年1月、兵庫県まで足を運び、監督就任を墓前に報告した大恩人。それが同社の高橋誠治元会長(2018年死去)だった。現役時代に知り合い、立浪に大きな影響力を与えた財界人。立浪は「お父ちゃん」と慕い、高橋さんは「たっちゃん」と呼んで公私ともにサポートした。

 「高橋会長は現役時代から本当にお世話になった方」と今でも感謝を忘れない。2009年の引退直後には「中日の宝・背番号3を永久欠番にする会」をつくり、自らナゴヤドーム外周に立って署名を呼びかけた。偶然にも同じ8月19日生まれ。13年のWBCコーチで背番号が81だったのは「8と1を足せば9。8、1、9でいこう」の言葉があったからだ。

 高橋さんをよく知る人は「立浪さんが監督になるのを、本当に楽しみにしていた」と言う。その姿を「お父ちゃん」に見せることはできなかったが、同社の化学技術が再び支えてくれる。

 和田、中村、荒木…。現役時代に同社を紹介し、ネーム入りバットケースを作ったのは限られた後輩だけだった。今回の3ケースは共同使用だが、急きょ細川、石川昂、岡林の発注が決定。ところが彼らが専用のケースからさっそうとバットを取り出す姿を想像していたら、目の前の試合はあっという間に終わっていた。まさかバットと湿気をテーマに書いた日に、6安打零敗とは…。本拠地では1分けをはさんで5連敗で、24イニング連続無得点。まさしく竜のバットは湿りっぱなしである

https://news.yahoo.co.jp/articles/b00faf3df07e2228043035388f129ae42ccf8ba1