防衛大学校で教鞭をとる等松春夫教授が公開した衝撃的な論考『危機に瀕する防衛大学校の教育』について、インタビューをおこなった。なぜ、等松教授は職を賭してまで“告発”に踏み切ったのか。(前後編の前編)

コロナ禍以前から、自衛官教官として「病人・けが人・咎人」【4】を送り込んでくる、防衛省・自衛隊のやり方に対して、私は内外で批判の声を挙げてきました。そのことで、自衛隊・防衛省、防大に出向してくる防衛官僚の一部から恨みを買っていた自覚はあります。

――自衛官教官とは、防大で「防衛学」の講義を受け持つ現役自衛官のことですね。

「病人・けが人・咎人」は海上自衛隊の一部で使われている隠語で、教育部署に回される自衛官の類型を揶揄して使われているフレーズです。
おそらく陸自・空自でも、実態は大同小異でしょう。病人とけが人は、本人だけの責任ではありませんが、咎人は論外です。

部隊や自衛隊内のさまざまな機関でパワハラや服務違反を起こしたり、職務上のミスを多く犯した者をさします。
要するに部隊や諸機関で持て余された人々が、「手軽な左遷先」として防大の防衛学教育学群に送られてきているのです。【7】

――それは知りませんでした。教授や准教授といった肩書になっているので、てっきり大学院を出た自衛官が担当しているもの、と。

文官教官(自衛隊ではなく、民間の研究者から選抜された教官)と違って、自衛官教官には厳格な資格審査がありません。
文官教官「講師/准教授/教授」の採用はこれまでの研究実績(と、ポストの空きがあるかどうか)によって決まりますが、自衛官教官の場合は、自衛隊で1佐以上の階級なら、防大補職で自動的に「教授」。
2佐、3佐なら「准教授」の地位が与えられてしまうのです。けれど、大多数の自衛官教官は、とてもその任には堪えられない人々です。修士号や博士号を取得していない人も少なくありません。【8】

教授や准教授といった立場で防大に補職されても、いっこうに勉強も研究もせず、代々引き継がれているマニュアル本で紋切り型の教え方しかせず、さらには安直な陰謀論に染まることもある。
自分が担当する授業の枠内で、学外から招いた怪しい右翼系論客に学生たちに対する講演をさせるケースまであり、防大内に不適切な人士が入り込むチャンネルになってしまっています。

怪しげな論客が教室で、政治的に偏向した低レベルの「講演」を学生たちに行い、彼らを招聘した「咎人」自衛官教官は良いことをしたと考え、
怪しい論客は「防衛大学校で講演した」ことで自分に箔を付ける。そうした行為がまかり通っているのです。

困ったことに、この種の「商業右翼」を講師として学外から招く悪習は、防大のみならず陸海空の幹部学校(上中級幹部を養成する自衛隊の教育機関)にまで見られるのです。【9】

https://news.yahoo.co.jp/articles/fdb5247f01efd575e72898bbc6d2435b94f70800?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20230630&ctg=dom&bt=tw_up