【風を読む】北方領土から露が逃げ出す日 論説委員長・榊原智
ロシアとウクライナで昨年来進行する事態が何を意味するのか。俯瞰(ふかん)すれば、「強い軍」が支えてきたロシアの衰退が加速している、ということか。
日本は隣国で、世界最大の領土を持つロシアの崩壊、分裂に念のため備えなければならなくなった。超大国ソ連倒壊の例もある。
ロシア民族の人口減少が進み、陸上兵力の縮小は確実な未来だ。ロシアにとってウクライナ侵略は、大規模な対外侵攻の最後の機会なのかもしれない。
非道な侵略の報いとしてロシアは、経済成長や軍事力強化に不可欠な「科学技術の革新」を重ねてきた日米欧の自由主義圏から、切り離された。自給自足型の経済運営を強行しても、強力な軍を長期的に保持したり、経済成長を続けたりすることは無理である。もともと国力の源は石油や天然ガスなど鉱物資源の輸出であって、先進工業国ではない。
民間軍事会社「ワグネル」の反乱で分かったことは、戦車や対空火器を持つ少数の陸上部隊の進軍を前に、首都モスクワの防衛に不安があったという点だ。首都でこれなら辺境はがら空きなのではないのか。
陸軍の訓練された将兵をウクライナですり潰し、泥縄式で集めた新兵を投入した結果がこれだ。プーチン政権は核戦力を誇示して自国防衛を図るしかないが、治安や秩序、モスクワ所在の政権の正統性まで核兵器で確立することは難しい。
ロシアがシベリア征服を終えたのは日本の江戸時代である。今後は、国力の低下と混乱で人口約700万人の極東ロシア地域を保てなくなるかもしれない。国境線の南には巨大な人口を擁する中国が控えている。
https://www.sankei.com/article/20230701-FYQT2NEZAVIH3D42DPWSD33KGQ/