
英エコノミスト誌、日本経済は高齢化で「頭脳停止」がすでに始まり、少子化対策も「政府は無力」と結論
「思考停止(Brain freeze)」と海外からの指摘
さて、そのように研究開発サービスを通じた外貨流出が増加する状況の中で、2023年5月、英経済誌エコノミストが『It’s not just a fiscal fiasco: greying economies also innovate less(単なる財政のつまずきでは済まない:高齢化する経済はイノベーションをも衰退させる)』と題する特集記事を掲載した。
同記事は、経済の高齢化により財政的な負担が増すばかりか、革新的な技術が生まれにくくなる事実を懸念する内容だ。
日本に限らず、世界でも近い将来に人口減少が想定される中、革新的な技術が生まれなくなることで生産性が低下し、成長率も押し下げられるという。
10ページに及ぶこの特集記事には、日本に特定して言及する箇所も出てくる。
そこでは、イタリアとともに人口維持が難しくなる「出生率2.1以下」の国の実例として日本の名前が挙がり、岸田首相が1月23日の施政方針演説で「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と発言したことが紹介されている。
すでに述べたように、同記事の核心は「出生率が低下すること(≒人口動態が高齢化すること)でイノベーションが起こらなくなる」ことの問題で、世界経済全体がこれからその事態に直面する可能性があり、一部の国・地域ではすでにそれが始まっていることが、先行研究などとともに示されている。
国民が多かれ少なかれ実感している事実ながら、あらためて海外メディアから指摘されるとショックを受けるのは、すでに問題が顕在化している「一部の国」として日本が登場することだ。
略
イノベーションと年齢の関係性について、記事で紹介されている研究結果によれば、研究者の特許出願率は30代後半から40代前半でピークに達し、40代から50代にかけて緩やかに低下する傾向にある。
話を多少ややこしくしてしまうが、経済学の視点で考えると、イノベーションを通じて「全要素生産性(生産性)」が改善するからこそ、労働力や資本の投入が一定だとしても、高い成長率を実現できる。
逆に言えば、少子高齢化により労働力や資本が減少していく社会では、イノベーションによる生産性向上で成長(率)をテコ入れする必要が出てくるわけだが、少子高齢化が元凶となってイノベーションまで停滞してしまうのでは、日本にとっては取り付く島もない。
記事では「Brain freeze」と銘打たれた図表を通じ、日本がかつて知的財産権を武器に主導的役割を果たしていた複数の技術分野で、ことごとく失墜した実情が示されている(著作権の関係でここでは図表を掲載できず、ご了承いただきたい)。
図表およびそれに対応する本文は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の経済動向センター(CEP)による分析に基づくもので、ゲノム編集技術やブロックチェーン技術への日本の貢献がほぼゼロになったことや、水素貯蔵技術や自動運転技術、コンピュータビジョン技術については、アメリカや中国の後塵を拝する現状を指摘する。
「Brain freeze」は、図表が示すイノベーションの低迷という文脈に沿わせれば、「頭脳停止」や「頭脳流出」の訳語が相応に思うが、より一般的に「思考停止」と訳されることも多い。近年の日本経済・社会について頻繁(ひんぱん)に使われるフレーズでもある。
こうした頭脳流出なり思考停止なりの実態を知るだけでも日本の深刻な現状に頭を抱えたくなるが、記事ではさらに戦慄を覚える事実として、「少子高齢化社会に生きる若者は、そうではない社会に生きる若者に比べて起業する割合が低くなる」との研究結果まで紹介されている。
記事の指摘を踏まえると、スタートアップ支援を加速しようという岸田政権の取り組みそのものは正しいように思える。しかし同時に、日本の人口動態を見る限りすでに困難な、もっと言えば不可能に近いことに取り組もうとしているという冷静な視線も併せ持つ必要がありそうだ。
なお、岸田政権は「異次元の少子化対策」と銘打った政策パッケージも併走させ、それもイノベーション衰退を回避するための「合わせ技」としては間違っていないように思われる。
しかし、エコノミスト記事は、子供1人に高額の助成金(1人目8300ドル、2人目1万3000ドル)を支給するシンガポールの出生率が1.0にとどまっている事実を示した上で、「出生率低下を逆転させるために政府はほとんど無力」と、身も蓋もない結論を導き出している。
続く
https://news.yahoo.co.jp/articles/5b741ae0c513e87c4a5f11daeb9a8238e3a3392a?page=3